地元の特産農産物で果実酒を製造し、販売するため2020年に認定された「かわさきそだちワイン特区」について川崎市は3月25日、規制が緩和されたと発表した。これまでの認定では限定されていた生産者や提供の範囲、販路、販売方法などが緩和される。市は、市内農業の認知度向上や観光資源化、農家同士の連携強化に期待を寄せる。

以前までの認定は、多摩区、麻生区、宮前区の農業者が自ら生産した農産物のみを使用した醸造に限られ、製造した果実酒の提供も、生産者自身が経営する飲食店や農家民宿での飲用に限定されていた。

醸造量増加の実現の可能性や、ワインのボトル販売の需要が高まってきたことなどを受け、市は国にさらなる規制の緩和を申請。3月22日に変更の認定を受けた。

今回の規制緩和により、川崎市内で生産量の多い梨、ミカン、柿、イチゴ、ブドウといった果実を原料として醸造すること、最低醸造量2㎘を上回ることを条件に、生産者自身の営業所に限定せずボトルでの販売が可能になった。加えて、特区の範囲が市全域に拡大し、農業者以外が醸造することも認められる。

新規参入課題も

市農業振興課の担当者は「ホテルや飲食店での提供、ワインイベントを開催することで、それを目当てに訪れる方もいるのでは。新たな観光資源の1つにしていきたい」とねらいを説明。他の生産者が栽培した果実を使用できることから、農業者同士の連携強化にも期待を寄せる。市担当者は「川崎市で農業ができることを知ってもらえる突破口になるのでは。ワインをきっかけに、市の良さを広めたい」と力を込めた。

多様な事業者による新規参入を視野に入れる一方、市担当者は「免許取得にはかなりの勉強が必要な上に、その後も投資をしていかなくてはいけない」と醸造の難しさについても言及。「今回は市内産の果実を使わなくてはいけないことから、市内の農家と関係を築く必要もある」と、新規に参入する上での課題を挙げた。

地域としての6次産業化

市内で唯一ワインの醸造を行っている農業生産法人(株)カルナエスト(山田貢代表取締役/麻生区岡上)も、今回の規制緩和を歓迎する。山田代表はワイン醸造の難しさにふれる一方、委託醸造が可能になることで、生産だけでなく加工、流通、販売を行う6次産業が地域の中で実現することへ期待を寄せる。事業として参入障壁の高いワインの醸造についても、「自分が受け皿になれる」と思いを語った。

山田代表は、「川崎市内には兼業農家が多い」とし、「野菜に比べて手間のかからない果実は、兼業農家の方々が選びやすい」と説明。続けて、「醸造する時には果実の形や見た目にこだわらないため、今まで流通させられなかった分もワインとして商品にできる。農家の方々の所得向上にもつながるのでは」と期待を見せる。

今秋のボトル販売を目指し、山田代表は現在、新たな特区での免許取得に向け、税務署と調整を進めている。麻生区民祭りや市制100周年のイベントでの販売を予定しているという。山田代表は「農・商が連携して、川崎の魅力を発信していきたい。ワインという新たな切り口で、次の世代に憧れられるような農業を広めていければ」と展望を語った。