人の記憶ほどいいかげんなものはない。私たちの誰もが他人の発言や外界に影響を受けて、勝手に記憶を加工しているものだ。事実ではないことを真実だと思い込む、起こってもいないことを「起こった」というのは、日常茶飯事だ。

一方で、思い込みが疑似科学や陰謀論に結びつくと、やっかいなことになる。詐欺師やカルト宗教の教祖などは、思い込みを利用して相手を取り込もうとするからだ。心理学者のダニエル・シモンズ、クリストファー・チャブリス両氏は、ベストセラー『全員“カモ”』で思い込みが持つ危険性を指摘し、まわりを搾取する人の餌食にならないように警告している。

記憶ほど不正確であいまいなものはない

多くの人は、記憶というのは、動画の録画やパソコンのハードドライブのように、重要だと考える出来事を完璧に写し取って保管していると思っている。そうした出来事が鮮明によみがえったり、すぐに思い出せたりすると、自分の記憶は確かだと思う。

実際には、150年前の科学研究によって、記憶はよみがえるだけでなく、再構成されることが明らかになっている。人は、記憶を引き出しているときに、出所の異なる情報を組み合わせて過去の出来事を再構築していることがあるのだ。

一見、つじつまの合った1つの記憶のように思えても、別の時や場所で起きた、似て非なる体験の記憶が交ざっているということもある。

私たちの記憶は、人から聞いた話の細部を取り入れることすらできる。記憶の細部は「起こってほしいこと」や「起こるのではないかと思うこと」で埋められていくことが多い。