台中関係の行方が気になるが、軍事評論家・田岡俊次氏は台湾有事は「百害あって一利もない戦争」だとし、統一でも独立でもない、台湾の現状維持が妥当だと解説する。田岡氏の著書『台湾有事 日本の選択』から一部を抜粋し、台中関係のこれまでと現状を前後編に分けて紹介。後編の今回は「次の脅威は日本」論にも目を向ける。

前編:「百害あって一利なし」台湾有事は避けられるか

統一でも、独立でもない方向性へ

蔣介石時代の「白色テロ」に怯えた「本省人」(第2次世界大戦前から台湾にいた人)が自由になれば、独立志向の民進党に傾くのは自然で、2000年の総統選挙で「本省人」で弁護士出身の陳水扁(ちん・すいへん)氏が勝った。

だが行政力が不十分で親族スキャンダルも続出、2004年の総統選挙では小差で辛勝した。

アメリカでは陳水扁氏が公的機関「中華郵政」の名があるのを「台湾郵政」に変更する「正名政策」など、中国を刺激する言動が多いことに危険を感じる論が出た。

当時アメリカは経済・財政上、中国との関係を重視していたから、コリン・パウエル国務長官は「『台湾関係法』ではアメリカは台湾防衛の義務を負っていない」「アメリカは1つの中国政策を堅持し、台湾独立を支持しない」などと演説し、陳水扁総統を牽制していた。

台湾では一時衰亡するかに見えた国民党が対中国関係の改善を唱えて支持を回復、香港生まれの「外省人」、アメリカで弁護士をしていた馬英九(ば・えいきゅう)氏が2008年の総統選挙で圧勝、中台間で直接の通信、通商、通航の「3通」を実施するなど、経済関係を一層高めて2012年に再選された。