経営者の多くがビジョンやミッション、バリュー、想いなどの(売上に直結しない)抽象的なメッセージを語るのはなぜでしょうか。

その理由はシンプルです。

成功した経営者は綺麗事を語るのが仕事なのです。会社が大きくなればなるほど、従業員や利害関係者に伝わりやすい、わかりやすいメッセージが必要となります。そのため「ありがとうが大事」と言ったりするのです。

少し話がそれますが、経営者は古典も好きです。世間で名を馳せるリーダーたちは、『菜根譚』『孫子』『論語』といった古典をよく読みます。特に『孫子』はビル・ゲイツやイーロン・マスクの愛読書として有名です。

昔から人間の本質は変わらないことや、戦争の戦略はビジネスと似通ったところがあるので、好まれるのでしょう。

名経営者が「影響を受けた」と言って紹介したりするので、当然「読んでおこう」という気持ちになるのはよく理解できます。だからといって、時間を割いてわざわざ読む必要はありません。古典を読んでも売上に直結しないので、時間と努力のムダに終わります。

「戦わずに勝つべき」という孫子の兵法はもっともだとしても、真に受けて「どうやったら戦わずに勝てるだろうか?」と考えこんでしまってはいつまでたっても売り上げは上がりません。

ビジョンを「メシの種」にする人

話を戻しましょう。

経営者とは異なる理由からビジョンを語る人たちもいます。経営コンサルタントです。

ひと口に経営コンサルタントといっても、専門はさまざまですが、なかでもビジョンを語るのは参入障壁が低く、マーケットが広いのでビジネスとして成り立ちやすい。彼らはビジョンでメシが食えるので、ビジョンの重要性を語るのです。

経営コンサルタントの存在も「ビジョン重視」の状況に拍車をかけているといえます。コンサルはビジョンを語るとお金になりますし、それを聞く起業志望者は、資金計画は不要で、こむずかしいマーケティングを考えず、精神的にキツい営業もせず、ビジョンをしっかり決めたら成功すると思い込むことができます。

安易に夢を見られるという点では、宝くじと一緒です。よく考えたら期待値は低いのですが、コンサルと起業志望者にとっては一見、ウィン−ウィンなのです。