しかも年々市場が縮小し過当競争になっていました。そんな中でも奥井社長率いるHDJは年々シェアを増加させ、2000年には751cc以上の大型バイク市場でハーレーダビッドソンはシェアNo.1をとるに至りました。

なぜ縮小するバイク市場でHDJは成長できたのでしょうか。価格は日本勢の大型バイクが100万円とすると、2倍以上する220万円以上の高価格路線でした。物理的な性能ではハーレーは日本のオートバイに劣っています。しかも燃費も悪くさらに重いのです。奥井社長は、価格でなく価値を経験させて売る戦略に徹したのです。

関係性構築の視点からいうと、販売店との太い関係性構築を目指すディライトフル・リレーションシップと、直接顧客にハーレーの世界観を体験させ、経験価値を高めて関係性構築をする2本柱でした。当時まだネットもあまり発達せず、SNSなどのツールが全くなかった90年代に関係性マーケティングをしているのです。奥田マーケティングを一言でいうと、モノを売るマーケティングではなく、コトを創るマーケティングに徹したことでした。

販売店とウエットな人間関係を構築

HDJは直営の販売店を持っていません。ハーレーの正規販売店は日本のオートバイ販売店のわずか1%に過ぎませんでした。その3分の2はハーレー以外のメーカーとの併売店で、しかも小規模な販売店がほとんどでした。

店主にはメールさえも使えない昔ながらの頑固な人も多く、データベース・マーケティングとかディライトフル・リレーションシップ・マーケティングとかに全く関心もありませんでした。聞く耳を持たなかったのです。これらの店主たちを奥井社長と営業部隊は、根気強く、ウエットな人間関係などのアナログと各種データの管理と共有というデジタルの両面で根気強くアプローチしていきました。

例えば、奥井社長や営業部隊は販売店の店員の結婚記念日や誕生日にメッセージやプレゼントを贈ったりして徐々に関係を重ねていきました。営業担当者は日々販売店の相談に耳を傾けてアドバイスを親身になってやっていきました。