セブン&アイは首都圏スーパーストア事業のEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)を2025年度に2022年度比3倍の550億円にする「公約」を掲げている。「現時点では550億円に向けて、3分の2の達成を確実視している」(丸山好道セブン&アイ最高財務責任者)。しかしその内容は人員削減やIT投資による効率化に伴う経費削減策が中心。公約達成には営業力強化による売上・利益増も求められるが、その道筋は見えてこない。

ヨーカ堂の2023年度の既存店売上高は、直営売り場部分が前期比マイナスに沈んだ。最も気になるのは、中核と位置付ける食品でも同1.2%減となったことだ。山本哲也イトーヨーカ堂社長は、「価格敏感層の離反や外食産業への流出があった」と分析する。

ヤオコーやライフコーポレーションなど、食品スーパーで勝ち組とされる企業は、総菜などで高付加価値品を強化する一方で、低価格帯の品ぞろえも充実させ、消費の二極化に対応している。他方、ヨーカ堂は本部主導のリストラ策に終始、政策が一方向に偏り、消費者の変化に対応する余裕がないようにみえる。

会見後、記者団に囲まれる井阪隆一セブン&アイ・ホールディングス社長(撮影:今井康一)

こうした状況の中で、今2024年度は公表済みの24店舗を含め、計30店の「イトーヨーカドー」を閉店する。「従業員の士気低下は避けられず、トップラインを計画通り引き上げることは難しい」(証券アナリスト)。現状ではIPOはおろか、2025年度の公約達成も厳しいという見方がもっぱらだ。

昨年、セブン&アイが株式譲渡を強行し、従業員によるストライキにまで発展した百貨店のそごう・西武では、「お客がついている外商部門を中心に退職者が増えている」(そごう・西武関係者)。

ヨーカ堂では今年2月、45歳以上の社員を対象に早期退職希望者を募り、正社員の約1割にあたる700人程度が同社を去った。人手不足が深刻化する中で、今後も若手世代を含めて社員の流出が続く可能性がある。ある食品スーパーの首脳は、「ヨーカ堂の社員は経験が豊富。積極的に獲得に動いている」と打ち明ける。

現役幹部「社内に驚きの声はない」

そんな中でのIPO検討という発表。冒頭の関係者の発言は、IPOの実現可能性を横に置いた、ヨーカ堂社内に向けたパフォーマンスにしか見えない、というわけだ。

「分離しない」と言葉では強調しつつ、連結から外すという戦略は、アクティビストが主張してきた内容と結果的には大きく変わらない。今回の発表は、株主総会を前にセブン&アイの経営陣がアクティビストに対して先手を打ったと見ることもできる。

ヨーカ堂の現役幹部は、「IPOという話は前から言われてきたことであり、社内に驚きの声はない」と冷めた口調で語る。今、ヨーカ堂に求められているのは、営業力強化を伴った2025年度の公約達成であり、IPOなどはその後の話だ。ヨーカ堂、そしてセブン&アイ経営陣の胆力が試されている。

著者:冨永 望