『ゴルフ産業白書』を発行するなど、ゴルフ業界に精通する矢野経済研究所の三石茂樹フェローは、「ショップの評価として、良いものをじっくり販売している。国内メーカーとして、チャレンジングなモノづくりをしている」と言う。

吉田氏がヤマハに入社したのは1990年である。当時スポーツ事業は全体の売り上げの5%程度だったが、「入社した営業系の半分は、配属先としてスポーツ事業を希望した」とのことで、それだけスポーツ事業がヤマハの社員にとって魅力的なものだったことがわかる。

残念ながら、スポーツ事業は1997年にスキーとテニスラケット事業から撤退し、ゴルフだけが残ったが、吉田氏がゴルフ事業推進部長になった2016年に、事業目標として売り上げ100億円を掲げ、昨年達成したという。

ゴルフ事業の役割として、ブランドイメージの向上は大きなミッションとなっている。それを、的確に表しているのが冒頭で紹介した「ヤマハレディースオープン葛城」である。

トーナメントでの新たな挑戦

この大会が始まった経緯について、「ヤマハはゴルフクラブ、ヤマハ発動機はゴルフカートを生産しており、ヤマハリゾートはゴルフ場を経営している。当時の両社のトップがブランドをさらに高揚させることを目的に、女子トーナメントを実施することになった」(吉田氏)と言う。

トーナメント自体も、ヤマハらしい革新的な取り組みが行われている。

その1つがゴルフ中継だ。実は通常のゴルフ中継は録画放送が多いが、スポーツの醍醐味を伝えるため生放送にこだわり、2012年からBSで生放送を実施している。インターネット中継も2014年から始めた。

ほかにも、会場である葛城ゴルフ倶楽部のある静岡県袋井市などでの地域貢献、アマチュアにも門戸を広げた若手育成なども実施。ヤマハの契約プロは男子では藤田寛之、今平周吾、女子では有村智恵、永井花奈、神谷そら。彼ら・彼女らの活躍もヤマハブランドの構築に貢献している。

飛距離が武器の神谷そらプロ(写真:ヤマハ提供)

革新的な取り組みをするアイデンティティを持つヤマハのゴルフへの取り組みは、つねにゴルフ界に新しい風を吹き込んできた。

ゴルフメーカーが相互に刺激しあって、ゴルファーに新しい楽しみを提供し続けていくことが、ゴルフの価値向上、発展につながるのではないだろうか。

著者:嶋崎 平人