飛行機としては異形のルックスをもち、海面スレスレを高速飛行する「地面効果翼機」の開発がトレンドとなっており、シンガポールの企業も受注を獲得しています。実現の可能性はあるのでしょうか。

海上スレスレを爆速で

 シンガポールの企業、STエンジニアリングが斬新なコンセプトの航空機を実用化しようしています。飛行機とボートを合わせような、その名の通り「空飛ぶ魚(エアフィッシュ)」と名付けた機体です。これは「海上スレスレを飛ぶ」というユニークなコンセプトを持つ「地面効果翼機」というものです。実現可能性はあるのでしょうか。

 地面効果翼機は、水面スレスレで飛ぶ際に、翼の端が引く渦によって抗力を減らす効果があります。最大のメリットは、船よりも遥かに速い時速数百キロのスピードを発揮できることです。

実はこのスタイルの航空機は、過去数十年に渡り各国が開発に挑戦してきました。特に旧ソ連時代のロシアでは、半世紀以上前より「エクラノプラン」と呼ばれ地面効果翼機の開発が熱心に取り組まれ、完成機は旅客機の翼を切り取ったような形状の物体が海面ギリギリを高速で飛ぶ異様な様子などから、「カスピ海の怪物」とも呼ばれました。

 また「エアフィッシュ」以外でも、旅行大手のHISが2024年、電動で推進力を得る「シーグライダー」と名付けた地面効果翼機を開発する米国企業へ出資を発表しています。

 そのようななか、2024年2月のシンガポール航空ショーで、STエンジニアリングが発表した「エアフィッシュ」が会場の中央に置かれ、“デビュー”を飾ったというわけです。

すっごい昔からあったのに…長年の課題とは

「エアフィッシュ」の異形ともいえる姿は、もちろん注目を集め、そのうえ、STエンジニアリングが「エアフィッシュ8」と呼ぶバージョンの機体について、トルコのスタートアップ企業が10機発注し、さらに10機のオプション購入へ基本合意したと発表がありました。

「エアフィッシュ8」は観光や民間輸送に使用されるということで、2人の乗組員と1000kgの貨物、または8人の乗客を載せることができるということです。さらには、米海兵隊も興味を示しているとの報道もショー期間中に流れていました。

 ただし、「空飛ぶ魚」が大々的に普及するかは不確定な要素が存在します。

 地面効果翼機には大きな弱点があります。飛行速度は船よりも格段に速いのですが、海面スレスレの“高度”は荒天で波が高いと危険が伴います。そのうえ、多くの船舶が行きかう場所ではその高速性が仇となり、他の船舶との衝突が懸念されるのです。

 また、左右へ曲がる際も、翼の端が海面に接触する危険を避けるため、旋回半径も大きくなってしまいます。

 いずれも地面効果翼機の利点の裏返しが弱点となっていることもあり、これこそが、長年コンセプトのみが語り継がれながらも、ときおり開発話が“ゾンビ”のように現れてきた背景でもあるのです。

 しかし、現代でもHISが出資した米国企業やSTエンジニアリングのように取り組む企業を見ると、交通機関としての魅力はあることは間違いないでしょう。現代の技術が過去の“失敗の歴史”を塗り替えられるか、興味深く見守っていきたいものです。