出雲市から広島へ早く移動したい場合、どんな手段があるでしょうか。鉄道なら特急「やくも」→新幹線「のぞみ」が考えられますが、その強力なライバルになるのが、中国ジェイアールバスと一畑バスが共同運行する高速バス「みこと号」です。

1時間以上早くて料金は半額以下

 新幹線がなく、空港が少ない山陰地方の公共交通機関は、あまり利便性が高いとはいえません。鉄道は電化されているのがJR山陰本線の一部とJR伯備線くらいで、京都・大阪〜鳥取間の特急「スーパーはくと」や、岡山〜出雲市間の特急「やくも」などを使っても、総じて時間がかかります。
 
 特に、山陰地方の中心都市である出雲市と広島方面とを行き来しようとすると、鉄道よりも高速バスの方が早いこともあります。出雲市駅〜広島駅新幹線口間には高速バス「みこと号」が運行されていますが、山陰地方の華といえる特急「やくも」と新幹線「のぞみ」を乗り継いだ場合よりも、所要時間で勝ることがあるほどです。

 では、所要時間や利便性の面で、「みこと号」と「やくも+のぞみ」とを比較してみましょう。

●出雲市駅6:25→(みこと号2便)→広島駅新幹線口9:44 運賃4200円
●出雲市6:30→(やくも6号)→岡山9:47/10:06→(のぞみ7号)→広島10:42 運賃1万2780円(指定席利用)

「みこと号」の方が早く、料金は半分以下です。とはいえ岡山駅で少し接続が悪いですね。念のために「みこと号4便」と比較してみましょう。

●出雲市駅7:55→(みこと号4便)→広島駅新幹線口11:14
●出雲市7:30→(やくも8号)→岡山10:43/10:54→(のぞみ111号)→11:33

「みこと号」が先に出発した「やくも+のぞみ」を追い抜いてしまいます。こうなる理由は距離の差です。鉄道での出雲市〜広島間は382kmありますが、バスだと166.2kmと半分以下なのです。

 では、実際に乗車してみましょう。「みこと号」は一畑バスと中国ジェイアールバスとの共同運行路線で、出雲市駅を10時30分に出発する「みこと号第6便」は、一畑バスにより運行されています。座席は2+2列リクライニングシートで、肘掛けの周辺にUSBポートもあります。充電ができるのでありがたい設備です。座席はほぼ満席で、その人気ぶりがうかがえました。

 車体後部には、横幅が広く豪華な化粧室とトイレもあります。便によってはトイレなしもあるようです。最前列を予約したので、景色がよく見えます。

鉄道の方が早い区間がある

 バスは斐伊川添いの県道26号を走りますが、堤防の上に道路があるような立地で面白いです。バスが通ると歩行者は歩けなさそうな道幅を、バスはスイスイ走ります。10時59分に雲南市の下熊谷バスセンターに停車した後、三刀屋木次ICより高速道路に入り、速度が上がります。ちなみにJR木次駅の近くですが、木次線はうねうねと曲がるのに対して、道路はまっすぐ。建設年度の差を感じます。

 バスはたたらば壱番地、道の駅「たかの」(広島県庄原市)と停車しますが乗降はなく、12時11分に三次インターに到着。こちらもJR芸備線の三次駅(同・三次市)が近いです。ここから広島駅まで「みこと号」は1時間38分、芸備線快速「みよしライナー」は1時間22分ですから、やや鉄道の方が早いです。全区間では「のぞみ+やくも」より早いバスも、三次〜広島間なら芸備線快速に軍配が上がります。

 ここまで休憩なしで走ってきましたが、12時17分に「江の川パーキングエリア」に停車しました「カフェコーナー」という名前の自販機とトイレくらいしかない場所で、休憩時間も10分ほど。すぐに出発します。

 さらに1時間ほど走り、高速道路を降りて大塚駅バス停(広島市安佐南区)に停車します。大塚駅はアストラムラインの駅です。ちなみに、同じバス停からJR横川駅行きの路線バスが頻繁に運行されており、例えば宮島口などに向かうなら、ここで乗り換えるとショートカットできます。

 広島の市街地に入ると交通量が増え、広島駅新幹線口に到着したのは13時49分でした。2024年3月現在は6往復が運行されている「みこと号」。使い方次第ではとても便利だと感じました。