現代の旅客機は、エンジンが2基の「双発機」、もしくは超大型機で採用される「4発機」のどちらかです。しかし、かつてはエンジンを3発備えた旅客機も少なくありませんでした。どういった理由で作られ、消えたのでしょうか。

「すごいコスパいい!」で開発された

 現代の旅客機は、両翼にエンジンが1基ずつついた「双発機」が大多数を占めています。またエアバスの総2階建て機「A380」や、「ジャンボ機」と呼ばれたボーイング747などは両翼に2機ずつの4発エンジンを備えています。一方で、かつて比較的メジャーではあったものの、ほとんど消えてしまったのがエンジン3基の「3発機」です。

 両翼に1基ずつと、垂直尾翼に1基のエンジンがついた3発機は、かつての民間航空業界では当たり前の存在でした。たとえば、ボーイング727やダグラスDC-10、「エルテン」の愛称で航空ファンに親しまれたロッキードL-1011「トライスター」、ツポレフTu-154などがこれにあたります。

 しかし、3発機は垂直尾翼の一部をエンジンが占領するため、動翼の面積が狭まります。そのため重量バランスも双発機や4発機よりもシビアであり、モデルによっては操縦にも癖が強い特性があるともいわれています。

 にもかかわらず3発機が多く存在したのは、かつての長距離フライトにおける鉄則が関係していると見られます。エンジンの信頼性が今より低かった時代、近くに空港のない海上を長いあいだ飛ぶ長距離運航では、双発機の使用が国際的に認められていなかったのです。

 そのため、4発機よりエンジンが少ないぶん経済性がよく、ひとつのエンジンが故障する万が一の事態でも飛行が継続できる3発機は、超大型機を投入するほどでもないものの、長い距離を飛ばなければならないフライトにはピッタリでした。

「3発機の最強要素」奪ったのは?

 双発機が長距離を飛べるようになったのは、「ETOPS(イートップス)」というルールの設定です。これは「Extended-range Twin-engine Operation Performance Standards」を略したもので、国土交通省は「双発機による長距離進出運航」と訳しています。

 これはエンジンの信頼性が高まってきたなか定められたルールで、機体の設計や、航空会社それぞれの運航能力など、一定の基準を満たした航空会社の機体は、いわば特例として長距離運航が認められました。具体的にいうと、認定を受ければ双発機も最寄りの緊急着陸先の空港から60分以上かかるルートを超えて飛んでもよい、というルールです。

 たとえば「ETOPS-120」に認定されると、その機体は「エンジン1基でも120分(2時間)飛べる」とされ、緊急着陸できる空港まで120分の範囲に入るルートの飛行が許されます。

 なお「ETOPS-120」はボーイング767シリーズが1985年に初めて取得。日本もFAAに準じ、当時の運輸省が1989年に同シリーズの「ETOPS-120」を認めています。このルールにのっとった「ETOPS」の時間は、新型機が開発されるたびに長くなっており、エアバスの最新機種A350は「ETOPS-370」、ボーイングの最新機種787は「ETOPS-330」の認定を受けています。

 つまり前者は「特定の条件下に遭遇した場合、エンジンひとつでも370分(6時間10分)、後者は330分(5時間30分)飛べる」ということです。30年間で約3倍のスペックを有したのです。

 そうなると、3発機は「長い距離を飛ぶことが許されながら、高効率な旅客機」という特長を一気に奪われることになり、多くの航空会社で退役せざるを得なかったと見られます。

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