ウクライナに間もなくアメリカ製のF-16「ファイティングファルコン」戦闘機が供与される見込みです。とはいえ、機齢を見ると既存のMiG-29やSu-27よりも古いそう。それでも性能が上、と言われるのはなぜなのでしょうか。

古くなってもアップデートされていれば性能は上

 ロシアによるウクライナへの侵略戦争は2年以上にも及んでいるものの、いまだ終わりの兆しが見えません。そのような中、まもなくウクライナが長きにわたり待ち望んでいたF-16「ファイティングファルコン」戦闘機の配備が始まろうとしています。

 ウクライナ空軍は、これまで旧ソ連製のMiG-29「フルクラム」やSu-27「フランカー」といった戦闘機も少ないとはいえ保有していましたが、防空の主力は各種地対空ミサイルシステムでした。しかしF-16の導入によって今後、ウクライナ空軍は改めて戦闘機による領空防衛が行えるようになるでしょう。

 では、従来のMiG-29やSu-27といった戦闘機と、アメリカ製のF-16では何が違うのでしょうか。

 MiG-29やSu-27が開発された時期はいずれも1980年代ころです。飛行性能こそ現代的な水準にありますが、搭載するレーダーシステムなどは陳腐化しており、新型機と比べると劣勢は否めない状況にあります。

 一方、ウクライナ空軍へ引き渡される予定のF-16は、オランダならびにデンマーク両国の空軍に配備されていた中古機で、年式だけで見るとMiG-29やSu-27よりもさらに10年古い機種です。

 しかし、これらはMLU(中期アップデート)プログラムと呼ばれる寿命延長・近代化改修を受けているため、2024年現在もアメリカ空軍など世界中で数的主力を担うF-16ブロック50と呼ばれるタイプと同等までに性能が引き上げられており、最新鋭とは言えないものの十分に戦える性能を有しています。そのため、MiG-29やSu-27よりも古いものの性能は格段に上だと言えるでしょう。

搭載可能なミサイルの性能差が圧倒的

 MLUプログラムが適用された近代改修型は「F-16AM」と呼ばれます。このF-16AMはMiG-29やSu-27に比べて具体的にどのように強いのか。最も空中戦能力に大きな影響を与えると見られる違いが、AIM-120「アムラーム」中射程空対空ミサイルを搭載できるという点です。

「アムラーム」ミサイルは、タイプによるものの約100kmの射距離を有していると推測されます。また、ミサイル本体に照準用レーダーが搭載されており、ミサイル自身が敵をレーダーロックオンし、発射後はF-16AMの助けを必ずしも必要としない「撃ちっ放し」と呼ばれる自律誘導が可能です。こうした誘導方式を「アクティブレーダー誘導」と呼びます。

 一方、MiG-29やSu-27が搭載するR-27空対空ミサイルは射距離こそ「アムラーム」に匹敵するものの、ミサイル本体にはレーダーがありません。そのためR-27を発射した戦闘機は常に相手を自機のレーダーでロックオンし続け、命中までミサイルを誘導する必要があります。こうした誘導方式を「セミアクティブレーダー誘導」と呼びます。

 現代の戦闘機による空中戦は、ミサイルの性能が戦闘機の機動性をはるかに凌駕するため、「相手の射距離に入る=撃墜される」という厳しい状況にあります。

F-16の運用開始でようやくロシア空軍と対等に

 セミアクティブレーダー誘導の空対空ミサイルを相手に命中させるためには、相手の射距離に入る覚悟を持った上で、命中までミサイルを誘導してやらねばならないという大きなリスクを抱える必要があります。

 それに対し、「アムラーム」を含むアクティブレーダー誘導の空対空ミサイルなら、発射後は早期に相手の射程圏外に逃げることが可能なので、こういった撃ちっ放し空対空ミサイルは、現代戦闘機の必需品と言えるまでになっています。

 ロシア空軍の主力戦闘機であるSu-35SやSu-30SMなどは、「アムラーム」とほぼ同等の性能を持つといわれるR-77「RVV-AE」空対空ミサイルを搭載しているため、R-27しか持たないウクライナ空軍のMiG-29やSu-27では太刀打ちできません。そのため、F-16AMによってはじめて対等に戦えるようになるといえるでしょう。

「RVV-AE」を搭載したSu-35Sと、「アムラーム」を搭載したF-16AMの戦いは、戦闘機やミサイルの性能だけではなく、状況認識を得るためのデータリンク・ネットワークや、パイロットが実行する戦術など、さまざまな要素によって決まることは間違いありません。

 それらを鑑みると、ウクライナがF-16を本格的に前線で使用するようになった場合、航空優勢を確保しようと双方の戦闘機による空中戦が激化すると予想されます。