島根県江津市の有福温泉は、1300年あまりの歴史を持つ名湯として知られていますが、1970年代をピークに宿泊客が減少、旅館や商店の廃業も相次ぐなど、にぎわいが失われています。こうした中、この春に大学を卒業し、神奈川県から移り住んだ2人の若者が、「よそ者」の目線を活かし地域に元気を取り戻そうと取り組みを始めています。

1300年あまりの歴史を持つ江津市の有福温泉…かつては年間30万人が訪れたという静かな温泉街を2人の若者が散策しています。

「後でお願いしていいですか?」
「タケノコおいしかった」

出会う人がみんな声を掛けてきます。

近隣住民
「町の人とすごく溶けこんでいるよね。住民票までここに移して住んでくれて感謝」

どうやら2人はここへ引っ越してきたようです。

島根の魅力をいくつか教えてくださいと質問すると…。

藤田愛さん
「生活が自分の家の中だけで完結していない。自分の尊敬できる大人の人がたくさん島根にはいる。いくつかと言われると3時間くらい喋りたくなっちゃうな…」

島根の魅力を語りだしたら止まらない、23歳の藤田愛さんは、神奈川生まれの神奈川育ちです。

藤田愛さん
「どこで暮らすかを考えた時に、今島根で暮らしたいなと」

藤田さんは、専修大学の神奈川県内のキャンパスで学び、今年3月、卒業。
愛してやまない江津市の、ここ有福温泉に移住しました。さらに大学時代の友人も「道連れ」に…。
長友大晟さん23歳、藤田さんと同じ神奈川生まれの神奈川育ち。大学時代に同じキャンパスで学んだ仲間です。

長友大晟さん
「藤田から島根ってとても良いところだよという熱いセールスを受けまして…」

とはいえ、生まれて初めて故郷を離れた2人。どうして島根県に惹かれたのでしょうか?

藤田愛さん
「大学のプログラムの一環で、授業と学外のインターンシップがセットになっている講座があり、島根県に関連したインターン先を選んで、それがきっかけで全く行ったことのない島根県に行くようになったのが大学1年生の時」

夏休みと春休みにあわせて2か月間、雲南市の企業でインターンを経験。そこで見つけた課題の解決策を探すプログラムに参加したのが始まりでした。

藤田愛さん
「島根は、絶対この大学のこのプログラムでなければ体験できなさそうなインターン先だったから」

都会育ちの藤田さんにとって島根は「レア感」のある地域。逆張りの発想で決めたインターンを通じて、まんまと島根の魅力にハマりました。その後、大学で開かれた島根県の寄附講座も受講。自治体職員やコミュニティビジネスに携わる人たちから県内の地域課題解決の取り組みなどについて学びました。
専修大学と島根県は、県出身学生のUIターン就職を後押しするため、2018年に協定を結びました。そのつながりから県は2021年、大学に寄附講座を開講、今年度も約300人が受講する人気講座になっています。
この講座を受講し、「島根愛」がさらに炎え上がった藤田さんは一度休学し、長友さんを誘い、有福温泉で地域おこし協力隊員として活動するなどして8か月間過ごしました。

藤田愛さん
「有福温泉で色々な勉強をしていく中で、町にある素敵なものやことをもうちょっと観光客に伝えたいという部分と、町の人が外に出てきて皆でおしゃべりしたりとか物が買えたりする場所があれば面白いんじゃないかと、皆で体験するマルシェみたいなものを開催していた」

滞在中には、地域の人から直接悩みを聞き取って地域が抱える課題を探り、何とか解決したいと奔走しました。

藤田愛さん
「(有福温泉の人は)めっちゃ優しい、温かい人が多い。神奈川にいるときは年齢が違う人と喋るということがそもそも機会としてあまりなかった。(有福温泉では)60歳とか70歳とか年齢が違っても気軽に接してもらえるのが嬉しい」

そのとき感じた「人の温かさ」が、その後の進路を決めました。

藤田愛さん
「有福に暮らしている方々と一緒に暮らしたかったので、新卒ですぐこっちに来ようと決めた」

藤田さんは、有福温泉に住みながらリモートを活用して、東京のIT企業の仕事を引き受けています。
一方、長友さんも益田市内の企業に就職、有福温泉から職場に通っています。

長友大晟さん
「インターンシップをしてみて、そこでの暮らしがあまりにも良かったので、自分が好きになった有福の人たちと一緒に就職してからも生活したいなと思って、どうしようかと考えた時に、じゃあまず有福で住もう、そこから仕事を探してみようと思った」

藤田愛さん
「色々な人に町のことだったりその人が見てきた有福温泉の歴史を沢山教えてもらったので、私たちがこれを今度は次の世代に後ろに残していくために何かできることがないかなとこれから模索していきたい」

きっかけは大学の授業…不思議な縁で結ばれた島根で社会人生活をスタートした
藤田さんと長友さん。その視線の先にはどのような風景が広がるのでしょうか?