3月15日(金)に放送された「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、「“異端児”が世界を変える!〜世界初!キリンの“減塩食器”〜」。

ニッポン人が抱える大きな健康課題が、塩分の取りすぎ。高血圧のリスクが高まるとされ、脳梗塞や心筋梗塞など、さまざまな疾患を引き起こす可能性が指摘されている。
そうした中、ビール大手「キリンホールディングス」が開発するのが、世界初の研究技術を活かした「減塩スプーン」だ。なぜ今、「減塩」しかも「食器」なのか? 前代未聞の挑戦を追った。

【動画】世界初の研究技術を活かした「減塩スプーン」

「キリン」が開発する“電気の食器” 世界初の機能を持つ「エレキソルト」とは?


東京・中野区に本社を構える「キリンホールディングス」(従業員約3万人、売上高2兆円)。始まりは1907年。家庭用に販売したラガービールが、特に戦後は長きにわたりシェアが6割を超え、ビールと言えば「キリン」と言われてきた。
その後はライバルの追随もあり、ビール業界では、長年熾烈なシェア争いが繰り広げられている。

磯崎功典社長は、「1994年がピークで、日本のビール業界はマイナスに入ってきている。一度もプラスがない。全体のボリュームが下がっている中でシェアを取り合うのは消耗戦。シェアにはもうこだわらない。利益や金額にはこだわるが、数量で争うのはナンセンス」と話す。

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変化を迫られたビール事業で、シェア争いから脱却を図ろうとしている「キリン」。
磯崎社長は、10年間飲み続けているという「キリン」が作ったサプリメントを見せてくれた。

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「キリン」は、免疫機能を活性化する「プラズマ乳酸菌」が入った健康食品をシリーズで販売。その売り上げは200億円を超えている。ヘルスサイエンス事業の売り上げは全体から見れば約5%だが、将来を見据えた重要な新規事業だという。
磯崎社長は、「とにかく変わろうとチャレンジする、失敗を恐れない会社だと。ビールと飲料で一つ、医薬事業、ヘルスサイエンスで3分の1ずつが私としては理想」と話す。

アルコール事業とは無縁…研究一筋!「新規事業をするためにキリンに入社した」


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この日行われていたのは、「キリン」の新規事業チームが集まったグループ会議。
2017年から始まった「キリン ビジネスチャレンジ」は、社員からアイデアを募集して支援する制度で、健康関連の商品が次々と生まれている。

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ヘルスサイエンス事業部に所属する佐藤愛さん(38)も、これまでにない事業にチャレンジしていた。

「ビールとか全く扱ったことがない。何もないところから開拓するのが好きで、それをやらせてもらえる環境」。

佐藤さんは東京大学大学院出身で、学生時代はザリガニの研究に明け暮れ、その論文は有名科学誌の表紙を飾るほど。2010年に入社し、食品素材の研究に携わっていたが、新規事業がやりたかったという。
「全然違う業務の研究をやっている時、病院の先生から『食事療法は重要なのに、なかなか続けられない』という声や、食事療法をやっている方からは『普段の食事から変えるのはつらい。満足度が下がる』という声をもらった。解決の方法がないか、広く探索していた」。

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そんな佐藤さんの新規事業が、塩味を増強させることのできる食器「エレキソルト」だ。
最も商品化に近いスプーンは、金属を樹脂で覆ったような二重構造になっており、電池を使い微弱な電流を流すことで、塩味を1.5倍感じることができる。世界初の技術だ。

佐藤さんは、夫と娘の3人暮らし。この日の夕食のメニューは、減塩の野菜スープと減塩カレーで、自宅で食事をする時も、エレキソルトを使って研究している。
塩味が増強されるというエレキソルトのスプーンは、スイッチを入れて食べ物を口につけると、電流の流れができる。塩味のもとになっているナトリウムイオンは、通常は料理の中に分散されているが、エレキソルトで微量の電流を流すと引き寄せられ、集まってくる。
その状態で舌に触れるため、塩味を強く感じるという仕組みだ。

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この日、佐藤さんは明治大学の宮下芳明教授を訪ねた。宮下さんは、電流を流して味覚を変化させる「電気味覚」を研究。その成果が認められ、去年、ユニークな科学研究に贈られる「イグ・ノーベル賞」(栄養学)を受賞した。佐藤さんは宮下さんの研究に5年前から目をつけ、共同開発してきた。
「『いま欲しい』という声を山ほど聞く。こんなにニーズを感じる形でプロダクトに近づいていることはなかなかない。できる限り応援していきたい」と、宮下さん。

去年11月、神奈川・小田原市。佐藤さんは、エレキソルトと食事をどう組み合わせていくのか…探りにやってきた。訪れたのは、市内にある老舗の干物店。店が力を入れているのが減塩干物で、塩分を気にする人たちから引き合いが多いという。

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店内で見つけたのが、この「いい塩梅マップ」だ。小田原は市を挙げて減塩に取り組み、市内で減塩メニューや商品を扱う店舗をマップで紹介している。守谷輝彦市長は、
「小田原市は、脳血管疾患の死亡率が県内でワースト1の時代もあり、長く大きな課題になっている。一般の推奨よりも1日3g多く、塩分を取りすぎている。取り組みを行うことによって、減塩を意識するようになってきた」と話す。
スーパーには、市役所が監修したお弁当も。こうした努力が実を結び、小田原市の脳血管疾患による死亡率は年々減少している。

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佐藤さんは、市販の減塩レトルトカレーを用意し、市役所の食堂で、約20人の職員にエレキソルトのスプーンを試してもらうことに。

「物足りなさが解消される気がする。塩を感じる」
「辛いぐらい」

その後も佐藤さんは企業などに協力してもらい、実証実験を重ねる。塩分を抑えて作った餡かけチャーハンやスンドゥブなど、さまざまな料理でも試してもらうと、7割以上が「塩味が増したと感じる」「おいしさが格段に上がった」と回答した。一方、「金属的な味」を感じた人や「あまり効果を感じなかった」人も。
佐藤さんは、「体感の個人差が大きいのは感じている。何に使えばいいのか…それが提案できるといい」と話す。

そもそもエレキソルトは、どんな料理と相性がいいのか。この日はキッチンスタジオで、料理のプロと塩味を増強できる減塩レシピを考え、ラーメンやクッパなど、全5種類の減塩レシピが完成した。エレキソルトの効果を発揮できるレシピは、今後増やしていく予定だ。

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12月。スプーンの開発は大詰めを迎えていた。この日は、製品の評価試験を行う検査施設で食洗機に入れての洗浄試験を行う。実際は手洗いを推奨しているが、万が一、食洗機にかけてしまった場合を想定してのテストだ。しかしここで、思わぬ事態が――。

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