欧州各国ではクルマのオーナーに対し、愛車が排出する二酸化炭素量に応じて変動する税金が課せられています。その結果、フランスでもしトヨタの“進化型”「GRヤリス」の新車を買おうとすると、ショッキングな総支払額を目にすることになると話題になっています。

二酸化炭素の排出量に応じた税金が課せられる

 昨今、日本では、レギュレーションなどの問題から“楽しいクルマ”が減りつつあります。そうした状況はヨーロッパも同じ。もしかしたら、その状況は日本より厳しいかもしれません。

 何しろ近年、自動車メーカーは車両価格を値上げしている上に、欧州各国の政府がクルマが排出する二酸化炭素量に応じた巨額の税金をオーナーに課しているのです。

 そんななか話題となっているのが、フランスにおけるトヨタ「GRヤリス」です。

 新たにATモデルも追加された“進化型”「GRヤリス」は、円安時代ということもあり、フランスでは4万6300ユーロ(約755万円)〜というプライスタグが掲げられています。

 日本で“進化型”「GRヤリス」の「RZ“ハイパフォーマンス”」グレードは消費税込で498万円〜ですから、日本人には現地価格が割高に見えるかもしれません。もっともこの現地価格、輸送コストも上がっている昨今では無理もないことでしょう。

 ただしフランスで“進化型”「GRヤリス」を購入しようとすると、それ以外にも相当な額の税金を支払わされることに。そのため総支払額はショッキングな額となります。

 フランスで“進化型”「GRヤリス」オーナーを痛めつけるのが、毎年のように引き上げられている“Bonus/Malus”という税金。日本語で表現すると“ボーナス・ペナルティ”みたいなものです。

 二酸化炭素排出量が117g/kmまでの新車を購入する場合、Bonus/Malusは支払う必要がありません。

 しかし、118g/kmの50ユーロ(8154円)から始まり、1km当たりの二酸化炭素排出量が1g/kmずつ193g/kmまで区分けされていて、排出量が増えていくにつれ“比例”ではなく“加速度的”に課税額が増えていきます。

 ちなみに194g/km以上は一律6万ユーロ(約978万円)が課されます。

 その結果、2024年度、WLTP基準が190g/kmの“進化型”「GRヤリス」6速MT車のBonus/Malusは4万5990ユーロ(約750万円)に、同210g/kmの8速AT車は6万ユーロとなりました。

 つまり、車両価格と同等、もしくはそれ以上の額の税金が課せられるのです。

 参考までに、2022年度だとMT車=1万2012ユーロ(約196万円)/AT車=2万6247ユーロ(約428万円)、2023年度だとMT車=1万4881ユーロ(約243万円)/AT車=3万1063ユーロ(約507万円)の計算でした。これを見ると、2024年度は大幅にBonus/Malusが引き上げられているのが分かります。

●共同開発車の「GRスープラ」は規制強化を見越していた?

 同様に、お手頃な本格FR車として世界で人気を博しているトヨタ「GR86」の二酸化炭素排出量は194g/kmを超えるため、MT車で3万3900ユーロ(約553万円)、AT車で3万5700ユーロ(約582万円)という新車価格に、6万ユーロをプラスして支払う必要があります。

 なお「GR86」は、欧州で新たに導入される安全基準“GSR2(General Safety Regulations 2)”を満たすためにはコストがかかり過ぎるとの理由から、2024年春に欧州市場から撤退することになりました。

 一方、BMWとの共同開発者である「GRスープラ」、こうした排ガス規制の強化を当初から見越していたように感じます。

 2リッター車(車両価格5万3600ユーロ=約874万円)は4543ユーロ(約74万円)、3リッター車(車両価格6万5600ユーロ=約1070万円)は2万8413ユーロ(約463万円)と、Bonus/Malusが車両価格を超えておらず、“マシ”に感じられるほどです。

 こうした動きはすべて、“脱炭素”に向けたエンジン排除促進の一環なのでしょう。だからこそ欧州市場をメインと見据える自動車メーカーは、エンジンのダウンサイジングを図ったり、積極的な電動化計画を打ち出したりするのでしょうね。

 ちなみに、Bonus/Malusのほかに忘れてならないのが、日本の消費税に相当する付加価値税(VAT)です。こちらは車両価格の20%が課されます……。

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 そんなフランス市場向けの「GRヤリス」の割り当て台数は300台。当然のように抽選販売となっています。

 いわば“逆境”の中での販売となったわけですが、Bonus/Malusなど苦にしない富裕層のクルマ好きが買ってくれると考えれば、「GRヤリス」のユーザー層はトヨタが想定していたターゲットよりも“優良”なのかもしれません。

 彼の地の税金事情を知ってしまうと、日本に住んでいて幸せだなぁと感じます。ちょっと無理してでも、今のうちに楽しいクルマに乗っておこうと思いました。