様々な焚き火台がリリースされていますが、「そろそろ2台目が欲しい」と考えている人も少なくないはず。そこで今回は、数百の焚き火台を扱ってきた“炎の達人”に、強めの愛されポイントで注目される焚き火台のトレンドについて聞きました。

●注目は“作り手が本当に使いたい1台”

 焚き火ブームともいわれたここ数年は、焚き火台も機能性やデザイン、軽さなど多様化が進み、そのトレンドは目まぐるしく移り変わっています。

「最近では、作り手自身が本当に使いたいものを形にしたような、ちょっとクセが強めの個性派焚き火台が注目されています」と話すのは、都内で焚き火が楽しめる貴重なスポット・若洲公園キャンプ場にあるレンタル&ショップ「若洲アウトドアセンター」のマネージャーを務める金丸隼士さん。

 アウトドアのメガ・ブランドからは使い勝手や収納性など、極めてバランスの取れた焚き火台の優等生がいくつも登場。その反動なのか、ニッチな魅力に特化した“偏愛系”とも言える焚き火台の存在感が日増しに高まっているのだそうです。

「デメリットを削るのではなく、魅力の最大化をひたすら目指す。強く推せる美点があれば、多少の欠点はむしろ個性として愛せるというわけで、2台目3台目の焚き火台としても選ばれています」(金丸さん)

 そこで今回は、仕事・プライベート問わず、これまでに数百台の焚き火台に触れてきた公私混同系の焚き火マニアである金丸さんが気になる逸品をピックアップ。その魅力を思う存分語っていただきました!

●世界レベルのハイスペック機も爆誕した「町工場系」

VAGUE:日本の基幹産業を支える中小の製造業、いわゆる町工場がサブブランドとして手がけるアウトドギアも大きな潮流となっています。

金丸さん:金属加工が得意な工場にはアウトドア好きのスタッフも多く、「自分たちが本当に使いたいもの」を作り始めています。そんな“町工場”から生まれた、世界レベルの焚き火台が、静岡県沼津で自動車の部品などを製造する加工会社のサブブランド「ASOBU」が生み出した「IRORIシリーズ」です。

VAGUE:複雑な造形に見えますが意外とシンプル。組み立ててみると他のパネル系とは一線を画す丁寧な作り込みに驚かされます。

金丸さん:薄板を組み合わせる焚き火台の名作「ピコグリル」のブーム以降、多くのパネル型焚き火台が生まれては消えていきました。「IRORI」はそのレッドオーシャンにあえて挑むだけあって、収納性はもちろん使い勝手もかなりのハイレベル。

VAGUE:大中小の3サイズ展開。第三者機関による荷重テスト済みで、最大サイズの「IRORI-301」では限界荷重がなんと70kg、汎用性の高い「IRORI-201」で40kg、A5サイズに収納できる「IRORI-101」ですら最大25kgの荷重に耐えてくれます。

金丸さん:なぜそこまで強度や耐久性にこだわるのか「ASOBU」の担当者に聞いたところ、「アウトドアだけでなく災害時の炊き出しで寸胴鍋を載せられるよう設計したから」なのだそうです。

VAGUE:過剰なほどのヘビーデューティーさは、アウトドアギアには不可欠です!

金丸さん:燃え残りの灰がほぼ出ないほど優れた燃焼効率にもかかわらず、排熱を徹底的に研究することでテーブルの上で焚き火ができるほどの放熱性を実現しているのには脱帽です。

VAGUE:ここまで作り込まれているにもかかわらず、価格は抑えてくれているので、日本のモノ造りの底力のようなものを感じさせてくれるのも愛されポイントですね。

金丸さん:冬に開催されたイベント「焚火クラブ」でも注目の的でした。SNSで寄せられたユーザーの意見も積極的にフィードバックしていくそうなので、引き続き注目したいブランドです。

●美しさに見とれたい「オブジェ系」

金丸さん:モダンアートのようなシルエットを持つ焚き火台も注目されています。ブレード状の鋼板が描く螺旋状のデザインが美しい「SPIRALPIT(スパイラルピット)」は、木材加工メーカーが主宰するアウトドアブランド「森の中ストア」が展開する焚き火台です。

VAGUE:美術館にあってもおかしくない印象的なフォルムですね。
 
金丸さん:灰受けこそ別体ですが、本体はもちろん折りたたみは不可という仕様もかなりハードコア。でも、作っている本人たちが“重い、大きい、それ以上に美しい”と言い切っている時点で完全にリスペクトです。

VAGUE:収納性に目をつぶれば満足感は高い?

金丸さん:そうそう。夜になり火を入れると、ブレードの隙間から漏れ出る、幻想的な炎に心を奪われてしまうんです。合理的な焚き火台も魅力的ですが、ひたすら炎を美しく演出することで、焚火の原始的な魅力をあらためて教えてくれるこんな焚き火台があるキャンプサイトは本当に豊かさを感じさせてくれますよね。

●自分の感性で選べる「カスタマイズ系」

VAGUE:円形の鉄プレート越しに見え隠れする炎が印象的なのが、ピネココの「アポロ21」です。

金丸さん:創業60年を超える老舗金属加工会社のサブブランド「PINECOCO(ピネココ)」が手がける、「見て楽しむ焚火台」がテーマの焚き火台で、デザインプレートを差し替えて楽しむことができるんです。

畏敬の念を抱かせる大自然の中に佇む “鹿”、自分の夢を信じる者だけが遭遇できる“ペガサス”、悩み多き人類に希望という名の魔法をかける“妖精”などデザインも多彩です。

VAGUE:そうかと思えば、アウトドアからはかけ離れたモチーフも混ざっている気がします……。

金丸さん:ピネココの代表が面白い人で、「焚火は自由なもの。火を入れたら開放的な気分でどのモチーフも心のまま自由に解釈して欲しい」と熱く語ってもらったことも。「忍者」や「海賊」は、炎から“戦い”を連想した結果思いついたそうで、モチーフ選びの自由さも相まってコアな焚き火ファンに注目されています。

VAGUE:デザインプレートはオーダーメイドも扱っているんですね。

金丸さん:高田純次さんがオーダーした焚き火台を見たことがありますが、ある意味ポップ、率直に言えば適当な図柄でシビレました。火を入れて揺らめく炎を眺めたブランドの方によれば「いかにも高田純次さんらしさを感じた」というのですから焚き火は奥が深いです。プレートの種類は今後も増えるそうなので、ハラハラしながらも期待しています。

●メガブランド発の個性派「変化球系」

VAGUE:総合ブランドの老舗でありながら、新進ブランドに勝るとも劣らない攻めたモノづくりで焚火マニアを魅了するのがユニフレームの「焚き火ベースsolo」(1万5950円)です。

金丸さん:ユニフレームには大ヒット作「ファイアグリル」がありますが。究極の定番モデルがあってもなお、遊び心を感じさせる新作を投入してくるので油断できません。ソロとは銘打っていますが、グルキャンにも十分対応できるキャパを持っているのも人気のポイントです。

VAGUE:焼き網や鍋を吊るすフックも付属しているので、BBQや凝った煮込み料理など、焚火遊びは一通りこなせそうです。

金丸さん: A型のワイヤーフレームに40cm程度のフルサイズの薪が収まる炉を組み合わせた使い勝手のよさで、「焚き火ベースsolo」を一日いじるためだけにアウトドアに出かけるという方もいるほど。発売から2年ほど経過していますが、早くも定番焚き火台としての地位を築いた感があります。

●こだわりが凝縮された焚き火台を手に入れよう

「焚き火台は何台あってもいいものです。2024年の冬にも多くの焚き火台を試せるイベント『焚火クラブ』を開催しますのでぜひ遊びに来てください」と、心強いコメントを残してくれた金丸さん。

 薪を燃やすというシンプルなギアである焚き火台ですが、様々な思いや哲学を経て生み出される多様な1台から、お気に入りを選ぶのも焚火遊びの醍醐味なのようです。