ショップ店員をしていると、不審者や変質者が来店することも多々あるという。某デパートのアパレルショップで約10年働いていた経歴を持つゆき蔵(@yuki_zo_08)さんは、たびたび「危ない人」を見かけてきた。前回は、ショップ店員のスカートの中をスマホで盗撮する客の話を紹介したが、それはまだまだかわいいエピソードだったようで、「ここからが本題です」とゆき蔵さんは切り出す。本当に「危ない人」というのは日常に紛れていて、普通の客のフリをして店を訪ねてくるのだと語る。


ゆき蔵さんが働いていたのは、某デパート内にある女性の服飾品を取り扱う店舗だった。その変質者は「同僚の女性への送別品」を探して来店した。彼の標的となってしまったのは、小鳥さんという、いつもガーリーな服を着た“ゆるふわ”な雰囲気の女性店員だった。ゆき蔵さんのショップでは、ボーイッシュな服や大人っぽいクールな服を着る店員はいたが、ガーリーな服が似合うスタッフがいなかったため、小鳥さんがいつも“ガーリー担当”をしてくれていた。そういうこともあってか否かは不明だが、いつも変質者のターゲットとなるのは、小鳥さんだった。

小鳥さんに声をかけた客は、同僚女性への送別品として「ストッキング」を購入したいと申し出た。「彼女、いつもストッキングを履いてて、よく伝線させてるので」と言う彼に対して、小鳥さんは「ストッキングは女性にとってアンダーウェアに近いので、同僚の女性への送別品にはどうかと…?」とやんわりとアドバイスを送った。しかし彼は聞き入れず、すごい剣幕で言い返してきたので、「ではいろいろと見ていってくださいねー」と小鳥さんは一旦、待避したのだが…この後、小鳥さんは店長に呼び出され、怒鳴られてしまうことに!

この日の出来事は、この後待ち受ける恐怖のストーカー事件の単なる序章にすぎなかった。「また来るからそのときはきちんと対応するように」と店長に言い残して帰ったという“ストッキング男”は、その予告通り、小鳥さんのシフトの時間帯を狙って来店を繰り返していくのだった。この“ストッキング男”の事件についてゆき蔵さんに話を聞いてみた。

――変質者が来店した際は、警察はハードルが高くても、デパートの警備員に通報できないのでしょうか?

もちろんデパートの警備にも連絡はしましたが…。「物理的に何かしてこない限りは何もできない」と言われてしまいました。仕方のないことだとは思いましたが、何かあってからじゃ遅いのに…と歯がゆい気持ちでした。

――では、会社には?

店長には再三、相談も報告もしていましたが、「別にその方が営業妨害しているわけじゃないでしょ?」って言われました。確かに店長の言っていることは間違いではない…でも、そんな言い方って。あまりにも冷たくて…。怖がる小鳥さん本人に対しても「自意識過剰なんじゃないの?」と言ったそうです。なので、信頼できる上司に相談をすることにしました。


――店長のほかに、相談できる上司がいてよかったですね。

結果的には改善策を取ってもらえたのでよかったのですが、店長を通さずに直接連絡をしたので、店長からは「告げ口」だの「偽善者」だのと怒られ…。我慢の限界で店頭で怒鳴り合ってしまい、客前なのに大失態を犯してしまったのは反省しています。ただならぬ雰囲気にフロアの課長まで駆けつけて止めに入りました…。課長、あのときは申し訳ございませんでした!

エスカレートしていく“ストッキング男”の行為によって、小鳥さんは恐怖のどん底へと突き落とされ、出勤することはおろか、通勤電車に乗ることすらできなくなっていく。この事件の一部始終を漫画にしたゆき蔵さんだが、漫画の中で「声をあげるなら私も一緒に協力します」と小鳥さんへメールを送るシーンがある。ゆき蔵さんはそんな自身の行動を振り返って「強い正義感なんて、ただの押し付けだと気付いた」と書いている。事件のカタはついても、小鳥さんの傷は癒えることはない。同時に、ゆき蔵さんの心にも重いものを残したまま、事件は幕を下ろした。この一部始終を読んだあなたの心は何を思うだろうか?

ゆき蔵さんのブログ「ゆき蔵さんぽ。」には、ほかにも実話をベースに描いたエピソードが満載だ。華やかなアパレル業界の裏に渦巻く闇の部分が描かれている。毎日20時30分、多いときは1日に2回(12時、20時30分)更新しているので、ぜひ読んでみて!


取材協力:ゆき蔵(@yuki_zo_08)