もともとは仏教用語だが、現代ではもっぱら実力者四人組を称する意味で用いられる「四天王」。倒すべき敵の幹部として描かれることも多い四天王が、全員小さな赤ちゃんだったら……?

pixivマンガ月例賞(2023年11月投稿分)で優秀賞を受賞した創作漫画シリーズ「四天王のヒナ」は、新たな魔王が軍勢を整えるため、四天王の器を持つ魔族のヒナを育てるファンタジー作品。世界の支配をそっちのけで、魔王が育児に励んでいくコミカルな奮闘記だ。本来は宿敵となる人間の勇者もなしくずしに子育てに加わり、すくすくと成長するヒナたちの姿とともに、反逆者や人類側の動きなど、無視できないシリアスな展開も織り交ぜた作品となっている。

作者の比内ハツさん(@s_n_c_yha)は、アルファポリス連載「エルフ王とオーク王がマブダチ」(コミックスは2024年2月22日発売)で商業デビューしたプロの漫画家。連載のかたわら、個人創作として2023年6月から制作を続ける「四天王のヒナ」が生まれたきっかけについて話を訊いた。

――魔王のみならず勇者も四天王を育てるというシチュエーションがユニークです。本作を描いたきっかけやアイデアの発端を教えてください。

【比内ハツ】もともとは人外の赤ちゃんが描きたい、という些細な癒しを求めたのがきっかけでした。できれば種族はいくつか描きたかったため、複数の赤ちゃんをスムーズに育てるならどう組んでいけばいいか?と考えたときに魔族の四天王にして、魔王やその側近に育てさせればいいのでは?と考えついた結果、この作品ができました。設定上、魔王と爺は育児の仕方が全然わからない魔族たち。そこで、育児に慣れているキャラとして人間の勇者を出したのですが、結果的にユニークな仕上がりになってよかったなと思っています。

――種族がバラバラなヒナたちですが、デザインで意識されているポイントや、種族を選ぶにあたっての裏話があれば教えてください。

【比内ハツ】赤ちゃんは人間も動物もかわいいものなので、いいとこどりをしたさにできるだけ見た目が被らないように種族を選択しました。人間の赤ちゃんぽいフォルムでサイクロプス、ふわふわした動物系のヒナでハーピー、ドラゴンのヒナはファンタジーらしさの定番として作り、ゴーストは赤ちゃんとして成立するか、というのは少し自信がないところでしたが、デザインがかわいく仕上がったので結果的にOKです。系統が違うヒナがわちゃわちゃしてる姿を描くのは毎回楽しいです。

――作品の雰囲気づくりや構成・演出面ではどんなところを意識されているのでしょうか。

【比内ハツ】ファンタジー世界にはシリアスな面がよくあるもので、もちろんそういったシチュエーションも好きなのですが、ヒナはあくまでかわいさにほっこりしてもらったり、笑ってもらったりするのが目的で描き進めています。けれど反逆や人と魔族の壁はファンタジー世界のつきものと言える部分、そのあたりをどうコミカルに見せるか、読んでいて疲れないようにできるか、というのをいつも考えて構成や演出をしています。

――比内さんが本作を描くうえでこだわっている点や、「こんなところも見てほしい」というポイントがあれば教えてください。

【比内ハツ】漫画作りとして当然といえば当然なのですが、四天王のヒナは特にキャラクターデザインにこだわっている作品です!もちろん、いずれの作品もキャラ作りを頑張っていますが、勇者やアンデッドなど、誰かに刺さってほしい!と思ってルックスを作ったキャラが今作にはいます。そこがぜひ見てほしいポイントです。

――読者に向けて、今後の展開などメッセージをいただければ幸いです。

【比内ハツ】魔族と人類の争いは過去にあったものの、現在は風化しかけているのがこの世界の設定です。未来は魔族と人間の動向次第となっており、また争いが起こる未来も十分ありえるはずでした。しかし、ヒナ含め子どもたちという未来の象徴ともいえる存在たちが、平和な未来へと本編内で導いてくれており、これからもそうなっていく予定です。たまにハラハラさせますが基本的に安心して見ていただけるとうれしいなと思っています。

また、ファンタジー作品は商業でも描いており、連載作である「エルフ王とオーク王がマブダチ」のコミックスが刊行されました!ヒナとはまた違った笑いがあるファンタジーに仕上がっているので、ぜひ手に取っていただきたい作品です。

取材協力:比内ハツ(@s_n_c_yha)