Wedge2024年2月号では、「霞が関の危機は日本の危機 官僚制再生に必要なこと」を特集しております。特集では、泉房穂・前明石市長からの緊急提言を掲載しております。1月23日に公開しました「『国政に言いたいことは山ほどある』泉房穂・前明石市長が緊急提言!霞が関官僚を生かすには政治家の大方針が必要」に続き、緊急提言記事の一部を公開いたします。

 時代の大きな変化に弱いのは政治家だけでなく、「過去問」が得意な官僚も同じだ。それを実感したのがコロナ禍だった。新型コロナウイルスが流行し始めた当初、市長として、どう対応すべきか考えていたが、中央省庁から明確な指示はなかった。コロナ対応には過去問という「前例」がなかったのだ。そのため、官僚たちは何をすればいいか分からず、国の機能は完全にストップした。

 私はどう向き合ったか。答えはいたってシンプルだ。市長室に籠るのではなく、市内の商店街をずっと歩き回った。そして、そこにいる人たちの話を徹底的に聞いた。なぜなら、答えは現場、まちの中にあるからだ。

泉 房穂 Fusaho Izumi 前明石市長
1963年兵庫県明石市二見町生まれ。県立明石西高校、東京大学教育学部卒業。日本放送協会(NHK)、テレビ朝日、石井紘基衆議院議員の秘書を経て、1997年に弁護士資格を取得。2003年に衆議院議員となり、11年から23年まで明石市長を務める。

一気に感染が広がっていた2020年4月10日のこと。商店街を歩いていたら次々に声をかけられた。

「市長さん、見て。お客さんゼロや。先月もテナント料が払えてなくて、今月も払えなかったら明け渡しや」

「シングルマザーのパートさんが働いていたけど、店を休んでいるから給料が払えない。あの家、きっと困ってるわ。市長さん、助けてあげて」

 この市民の切実な声、心配する顔こそが「答え」だ。私はその場で「両方とも助けます」と宣言して、急ぎ、市役所に戻った。