あの日、球児たちの「聖地」には、青空が広がっていた。

 2023年12月10日、埼玉県富士見市に練習拠点を置く小学生が主体の少年野球チーム「ポジティブベースボールクラブ」の少年少女は、遠く離れた兵庫県西宮市の阪神甲子園球場のグラウンドに立っていた。

甲子園のグラウンドに元気よく飛び出していくポジティブベースボールクラブの子どもたち(同クラブ提供)

 この日は、スポーツ用品メーカー、ミズノが主催する「MIZUNO BASEBALL DREAM CUP Jr. Tournament2023(ミズノ ドリームカップ)」の全国大会FINALラウンドが行われていた。甲子園は、全国各地の予選を勝ち上がってきた強豪8チームが日本一を懸けて戦う舞台だった。

 ポジティブベースボールクラブもその中の1チーム……ではなかった。埼玉県の予選大会に出場したものの、初戦で2―15。コールドによる大敗に終わっていた。甲子園の土を踏むなんて、夢のまた夢のようなチームだった。

「週末な野球ばかりではなくて」

 チーム発足は22年2月。チームの代表を務める齊藤宗章さんは元球児で高校時代は埼玉県大会ベスト16まで勝ち進んだ。大学もサークルで活動を続け、社会人になってからも軟式野球の企業チームで汗を流した。子どもが生まれ、週末に一緒にスポーツを楽しむことが夢だった。

 「野球だったら、練習にも付き合える」

 しかし、5年になる長男は最初、近くにある硬式や軟式の少年野球チームに体験に行ったが、周りの経験者との差が大きかったこともあり、それほど関心を示さなかった。地元の団体職員だった齊藤さんは36歳のとき、転職して家業の自動車整備工場で働くようになった。これを機に、近所の子どもたちに野球を教えようと「自主練屋ポジティブ」を立ち上げ、地元の高校で夜に2時間、打撃指導などを請け負った。

 「せっかくならチームを作ってみよう」。21年秋にホームページを作って、子どもたちを募ることにした。

 参考にしたのは、茨城県つくば市の「春日学園少年野球クラブ」と神奈川・川崎の「ブエナビスタ少年野球クラブ」、東京・練馬に拠点を置く「練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブ」だった。3チームの特色は土日それぞれを午前と午後に分けて4分割し、いずれかだけを野球の時間に充てる「4分の1」ルールで活動するチームだ。

 練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブの練習には実際に参加させてもらい、ブエナビスタ少年野球クラブの練習も見学。春日学園少年野球クラブにも連絡をし、代表者から話を聞いた。指導者による怒号怒声を禁止し、「楽しい野球」を掲げることなど、「理念はすべて、こうしたクラブさんをモデルにさせてもらいました」という。こうしたチームは従来の少年野球チームとは一線を画し、保護者が見守り隊やお茶当番などを行う必要がなく、練習時間も少ないので週末に家族で過ごす時間もある。