キヤノンのハイアマチュア用モデル『EOS R8』が4月14日に発売された。
昨年年末に発売された、EOS R6 Mark IIと較べると、肝心要の35mmフルサイズセンサーも、AFシステムも同じ。とあれば撮れるものは大きくは変わらない。
このマウントと、35mmフルサイズセンサーを利用するなら、これ以上コンパクトにできなさそうなボディサイズが特徴。マウントがどても大きく見える。R8の価格はボディのみ(以下同)26万4000円。R6 Mark IIは39万6000円。13万円2000円もの価格差がある。
「高価になってしまったけど、フルサイズが欲しい」と年末に無理してEOS R6 Mark IIを買った筆者としては心穏やかならざるものがある。仕事には使うが、プロカメラマンというワケではない筆者にとっては「R8で良かったんじゃないか?」、13万2000円安い投資で良かったんじゃないか? という疑問がある。
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2023年01月13日
もう買ってしまったから仕方がないが、今から両者を選べるとすれば、R8を選ぶ可能性はある。世の中、そういう人も多いだろう。
そこで、キヤノンからR8をお借りして使ってみた。
若干、R6 Mark IIより簡素な操作系。ジョグスティックがないのが最大の違い。 十字キーのまわりのダイヤルも省略されているが、RFシリーズはレンズにコントロールリングがあるので、そこに機能を割当ててカバーすることもできる。 EOSの『6』の意味合いが変わってきたそもそも、『6』と名のつくモデルは『最も安価なフルサイズセンサーモデル』だったはずだ。筆者が2017年に買ったEOS 6D Mark IIは単体で22万5000円。20万円チョイであれば、趣味としてもなんとか購入できる(なんなら最新のiPhoneの上位モデルと変わらない価格だ)。
しかし、機能向上と円安の影響で、R6の価格は単体で33万5500円。R6 Mark IIにいたっては、39万6000円になった。つまり、EOSの『6』とナンバリングされたモデルは、5年で20万円強から40万円弱へと、2倍近く価格が上昇したことになる。
R8(左)とR6 Mark IIの比較。マウントサイズギリギリのボディが特徴的。『スポーツなどの撮影をするわけではなく、インタビュー、発表会状況の撮影がメイン』である筆者は『連写性能より、フルサイズセンサーの画質』に期待して『6』を選択している。また、筆者は『カメラマン』というよりは『ライター、取材者』だと自分を認識している(紙の雑誌など、本当に写真のクオリティが必要な場合はプロカメラマンに依頼する……というスタンスなので、筆者は自分をカメラマンだとは思ってない)。
写真で見るより、実際のボディのサイズ感の違いは大きい。このアングルで見た感じが、実際のサイズ感の違いに近い。写真撮影が本業ではない(と認識している)筆者にとっては、39万6000円はかなり高価だ。速度ではなく画質が必要な筆者には『R6 Mark II』でなく『R8』で、良かったのではないか? R6 Mark IIの性能は筆者にはトゥーマッチだったのではないか? という疑問だ。
以下、そういう目線で2台のカメラを見ていると考えていただきたい。
操作系の違い。R6 Mark IIの方が充実してはいるが、R8でも実用上は問題ないと感じる人が多いと思う。 RPにR6 Mark IIの大型センサーとAFまずは、R8はどういうカメラなのかをスペックから洗い出していこう。
結論を先に書くと、R8は、RPにR6 Mark IIの主要部品を移植したようなカメラだ。EOS R6 Mark IIから受け継いだ一番主要なパーツは、カメラの心臓部である高感度性能に優れ、美しい絵造りを可能とする有効画素数2,420万画素のフルサイズセンサー、そしてそのセンサーに組み込まれている『デュアルピクセルCMOS AF II』という超高性能AFの仕組みだ。
主だった、R6 Mark IIとの共通点はこちら。
逆にいうと、そのフルサイズ以外の、メカニカルな部分はできる限り省略してコストを下げて13万2000円という価格差を産み出しているのだ。
その中でも、購入を考える際に特に判断基準になるであろうポイントはこちら。
つまり、大きく省略されているのは、5軸手ブレ補正、メカの先幕シャッター、2つめのSDカードスロット、バッテリー容量……ということになる。
付け加えて細かい差違を挙げると、電子ファインダーの性能差、AFジョイスティック、前面のFnボタンの省略……あたりが気になるポイントだろうか?
自分の使用用途において、これらの違いが気にならないのであればR8はお買い得なカメラ、必要な部分が欠けているならR6 Mark IIなどの上位機種を選んだ方がいいということになる。
また、要素だけを較べていると気付きにくいが、小型、軽量、コンパクトであるというのも大きなメリット。
小さくても35mmフルサイズセンサーならではの高画質では実際に撮影した映像を見ながら(とはいえ、6000×4000ピクセルの画像は、サイトの都合で1000×667ピクセルに圧縮されているので、表示されている画像はあくまで参考レベルに考えていただきたい)、R8の性能について考えていこう。
まず、連写性能や手ブレ補正が影響しない静物写真においては、R6 Mark IIと仕上がりに違いはない。これはRF85mm F2を使って撮影しているが、35mmフルサイズの大きなセンサーならではのボケ味が楽しめる。
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2023年02月16日
今回は撮影する機会がなかったが、ポートレート写真においても同様のはず。
特に、R6 Mark IIの最大の武器でもあるデュアルピクセルCMOS AF IIによる素晴らしいAF性能——人や犬の目、乗り物の運転席などを画像認識して、自動的に合焦し続ける——も活用できる。センサー性能と、あとはソフトウエア技術だからR8にも同じものが搭載できたということなのだろうが、R8はこの点において非常にお買い得になっていると思う。
実際、R6 Mark IIにおいて、ピントの浅いレンズを使っていても正確に瞳に合焦してくれるこの機能が、一番価値が高いと感じるので、その部分が共通だというのはR8の最大の美点だと思う。
街角スナップがとても楽しいキットレンズであるRF24-50mm F4.5-6.3 IS STMで、夕暮れの街並みを撮ってみた。この状況だとまだ十分に明るいので、キットレンズでもブレずに高精細な画像が得られる。
ちなみに感度はISO160、シャッタースピードは1/80、絞りはF5.6、-1EVで撮影した画像だ。
ウェブ用に圧縮された画像だとよく分からないと思うので、ピクセル等倍で拡大するとこんな感じ(これでもjpeg圧縮はかかってる)。
フルサイズセンサーの面目躍如というか、コンパクトなボディを活かして街角スナップを楽しむのもいいだろう。
本体内に手ブレ補正が入っていないと、条件が限られるでは、次にデメリットの話。たとえば、こちらの写真。
さらに暗くなってきて、絞り優先で撮っているとISO感度が自動的に上がっていくが、高感度撮影でない画像が欲しいということで、ISO感度の上限を1600にしてみた。そうするとシャッタースピードが遅くなる。
この状況ではシャッタースピードは1/6まで下がっている。となると、本体内に手ブレ補正のないEOS R8だと手ブレの影響が出てしまう。ピクセル等倍に拡大すると、ご覧の通り。
対して、EOS R6ならご覧の通り。
元データをパソコンのディスプレイで見ると明らかなのだが、ウェブに掲載されてたデータだと分かりにくいと思うので、部分を等倍に拡大すると
1/6なので、走ってるクルマなどは被写体ブレを起しているが、手ブレ自体は適切に抑えられて、明らかにシャープな画像が得られる。
違いが出やすいように意図的な設定にしてみたが、筆者の使用状況でいうと、新製品発表会で登壇者の方を撮る時、など暗所で撮影することも多い。そういう場面で、手ブレ補正の有無は大きな違いを生む。ここが、EOS R8と、EOS R6 Mark IIの最大の違いだろう。
逆に、EOS R8だと、そういう場面では感度をガンガン上げていくしかない。
メカニカルな先幕がなく先幕は電子だけというのは、デメリットが発生する場合もあるが、筆者の日常的な撮影ではほとんどデメリットを感じない気がする。それでも、フリッカーが出やすいとか、電子シャッター頼りになると動きの速いものを撮る時にローリングシャッター歪みが出やすいとか、電子先幕で玉ボケを出したい時にシャッタースピードを速くした時に玉ボケが欠ける可能性がある、ストロボ撮影でシャッタスピードに配慮する必要があるなど、弱点がなくはない。
筆者の仕事で使う場合はほとんどデメリットはないのだが、状況によっては欠点が露呈する可能性はなくはないというところか。
バッテリーとカードスロットは運用次第かバッテリー容量の問題と、デュアルSDカードスロットの有無という問題もある。これはどちらかというと運用上の問題。
スペック上の撮影可能枚数、撮影可能時間は(雑に言えば)約半分になる。1日の撮影枚数がそれほど多くない人なら気にならない点だろうし、複数個のバッテリーを用意して運用で乗り切るという点もあるが、バッテリーをこまめに充電するのはそれなりに面倒だ。
筆者の場合、EOS R6 Mark IIでも、丸1日のイベント取材ではバッテリー交換をすることが多いので、EOS R8だとバッテリーは3つはないと不安だと思う。
SDカードスロットについては、趣味で撮影されている方ならバックアップがなくても問題はないと思う(撮り直せばいいと思えるなら)。しかし、筆者のように取材で撮影していると、2枚のSDカードに書き込まれているというのは安心材料になる。
この2点は、『取材』という筆者の仕事においては、手間を減らし、トラブルの可能性を減らしてくれるという意味で、大きなメリットだ。
美点と欠点を見極めて選ぼう両者を比較すると『6』の名の位置づけは、『一番、安くてコンパクトなフルサイズ』から、少し前の『5』のように、『一部仕事にも使える万能高性能機』に格上げになったのだと思う。
従来は、EOS 6D Mark IIまでは、連写性能やAF性能には妥協があったのに、EOS R6 Mark IIでは上位モデルに匹敵する連写性能やAF性能、そしてデュアルスロットなどによるプロユースでの安心感も提供されている。
そこで、空席になってしまった『一番、安くてコンパクトなフルサイズ』の座をRPや後継(と言っていいと思う)のR8が埋めることになったようだ。
風景や、静物(食べ物など)を高画質で撮影したり、高性能なスナップカメラとしてR8は非常に魅力的なモデルだといえるだろう。
RF35mm F1.8で、飲みに行った時に出て来た刺し身の盛り合わせを撮ってみた。明るいレンズで被写界深度を浅く撮ると美味しそうに見える。小型、低価格にするために、若干犠牲になっている部分はあるので、その点は了解できる人向け……ということになる。
キットレンズはお勧めしないが、代替案に関しては悩むひとつ、付記しておきたいのが、キットレンズとして用意されるRF24-50mm F4.5-6.3 IS STMについてだ。
EOS R8の『低価格、コンパクト』を推し進めるために選ばれたレンズだと思うのだが、このレンズのスペックは少々厳しい。
暗いからボケも出せないし、スナップを楽しむためとはいえ24-50mmというズーム幅も中途半端だ。
キットレンズのRF24-50mm F4.5-6.3 IS STM で、めいっぱい背景をボカしてみた。24-50mmという幅の狭いズームならいっそズームを諦めて単焦点にした方が良いと思うのだが。筆者のお勧めは、RF35mm F1.8 MACRO IS STM。だが、別体で買うと少々お高くなってしまい、EOS R8の価格メリットが打ち消される(RF24-50mmのレンズキットで買うと29万3700円だが、R8ボディ単体とRF35mm F1.8を組み合わせると34万1000円)。
もし、EOS Rシリーズ用に1本だけ選ぶとしたら、RF35mm F1.8
2023年02月13日
RF35mm F1.8 MACRO IS STMだと、こんな絵が簡単に撮れる。RF24-50mm F4.5-6.3 IS STMの絵と較べてみていただきたい。ボカせるのは楽しいし、逆に絞ってもシャープだ。筆者ならわずかなズームは諦めて、このレンズ性能を楽しむと思う。RPの時はRF35mm F1.8 MACRO IS STMのレンズセットが用意されたのに、なぜ今回は用意されないのか?EFレンズからの乗り換えだと、他にRFレンズを持っていない可能性も高いだろうから、単焦点1本で戦うのが厳しいと考えると、RF24-105mm F4-7.1 IS STMあたりもプランに入ってくるだろうが、これまたRF35mm F1.8を選ぶ場合と変わらないコスト増になる。悩ましい。
EF→RF乗り換えのためのレンズ選び。標準ズームはF4通し? それとも安い方?
2022年12月21日
結論! 自分のニーズを把握してる人が選べるカメラR8・高画質なスナップカメラ
・最も安価で小型の35mmフルサイズ
というところが本機のメリットだが、使い方によっては弱点が露呈する……というのがR8だ。
ある意味、オールラウンダーなR6 MarkIIや、R10などと違って、美点と欠点のデコボコがはっきりしていて、自分のニーズをはっきりと把握している人が選べるカメラだともいえるだろう。
そういう意味では仕事で利用状況を選べない筆者としては、R6 Mark IIを買っておいて良かったと思う(というか、無理やりにでも納得しないと(笑))。
しかし、趣味でカメラを使ってる方で、撮影カテゴリーでR8の欠点が出ないのであれば、R8は非常に優れた選択肢だと思う。
高い画質、クラスを超えたAF性能、コンパクトなボディを楽しんでいただきたい。
(村上タクタ)
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著者:村上タクタ