筋肉量を増やすことで知られるアナボリックステロイド。最近では個人で輸入し使う人もいる中、副作用のリスクも大きいことから医師は安易な使用に警鐘を鳴らしている。

【映像】「アナボリックステロイド」現役ユーザーの衝撃コメント

 3月のある日。都内のジムでトレーニングを行う男性。筋トレ歴7年のヨネさん、ボディビル大会にも出場経験がある。

 ベンチプレスで170キロを上げるヨネさんは「今まで上がらなかった重量が上がったりすると気持ちいい」と魅力を語った。

 20年前から日本の筋トレ人口はおよそ2倍に増え、2022年に1640万人となった(年1回以上の筋トレ人口 笹川スポーツ財団調べ)。

 そんな筋トレブームの中、ヨネさんがここ最近、耳にするようになったのが…。

 「筋肉を増やすためのアナボリックステロイドが、今日本のボディビル業界で蔓延しており問題になっている」

 アナボリックステロイドとは、筋肉増強剤のこと。ヨネさんは、ボディビルの大会である場面に遭遇したという。

 「表向きはアンチ・ドーピングで『ステロイドだめだ』と言っていても、蓋を開けてみたら普通にバックステージでステロイドの使い方についてみんな話していた」

 ヨネさんによると、ボディビル業界ではアナボリックステロイドを使っていない人を「ナチュラル」。使用している人は「ユーザー」と呼ばれているが、中にはユーザーであることを隠して活動する人もいるという。

 「“フェイクナチュラル”だ。本当は使っているのに”ナチュラル”ぶって大会に出たり『このトレーニングで筋肉がでかくなる』などと発信しているのは不誠実だ」

 筋肉量を増やすアナボリックステロイド。性の更年期障害や骨粗しょう症などの治療薬として使われ、医師の処方があれば入手できるがオリンピックや多くのプロスポーツで使用は固く禁じられている。

 JBBF=日本ボディビル・フィットネス連盟では大会に出場する選手に対し、アンチ・ドーピング講習会の講習を義務付けている。

 その一方、2023年度から導入した簡易ドーピング検査の結果、ドーピング違反の疑いが8件あったことを報告している。

 「JBBFはボディビル•フィットネスに関わる全ての人がアンチ•ドーピングの理念やルールについて教育啓発、情報提供活動を行っています。またJBBFはJADA(日本アンチ・ドーピング機構)と連携してアンチドーピング教育と検査を実施しており、2023年度からは簡易ドーピング検査を行い、フェアでクリーンなボディビル・フィットネス大会のため粘り強く取り組んでいます」(JBBF)

 『ABEMAヒルズ』は現在、アナボリックステロイドを使っているという人物を取材。匿名を条件に、書面で回答してくれた。

 「一つだけ意見として言わせて欲しいのは、アナボリックステロイドによって、人生の質が上がったり、何かを達成している人は少なくありません。自己肯定感があがったり、過去の自分を打ち破ったり....ルールを破らなければ、個人で使用する事は悪ではないと考えています」

 こうした中、アナボリックステロイドの安易な使用に警鐘を鳴らすのが、神奈川県川崎市で「筋肉増強外来」を開いているさぎぬま泌尿器科・美容クリニックの野口尊弘院長だ。

 「外用薬・内服薬・注射などがあるが当院では注射のみだ。基本的には今まで筋トレを習慣的にやっているものの、加齢と共に筋肉がつきにくくなったとか、衰えを感じてなんとか現状を改善したいと考えている方に対して実施している」

 野口院長によると、最近インターネットを使い、個人でアナボリックステロイドを輸入する人もいるという。

 自身も使用経験があるという野口院長。腕周りが大きくなるなど、効果はあったと振り返る一方、口にしたのは、誤った使い方による、副作用のリスクだ。

 「それぞれ副作用の出方にも多少差はあるが、主には肝臓の障害、高血圧、赤血球が多くなる多血症、さらには精子の質が下がるなど多くの副作用がある。使い方を間違えると、命にさえ関わる薬だ」

 過去にはアナボリックステロイドの使用による健康被害が相次いでいるとして、厚生労働省が利用実態の調査に乗り出したことも。

 個人輸入した医薬品の場合、日本で正規に流通される医薬品と違い、深刻な健康被害を起こしたとしても、国の救済を受けることができない。

 厚生労働省は、購入前に医師や薬剤師と相談するなど必要性を十分に検討してほしいと注意を呼び掛けている。

 野口院長は、アナボリックステロイドを使う場合は医師の指導の下、副作用のリスクを極力管理することが必要という思いから「筋肉増強外来」を設置。今も、月に5人ほどの人が利用しているという。

 「うちの中で『これ以上は使わない』という量があり、それだと3カ月+ケアの期間を含めて大体20万円台だ。当院ではそういったスポーツをやられてる方に対しては『ドーピングに引っかかるので』と断っている」

 野口院長は、アナボリックステロイドの使用は自己責任とした上で「やはり人間は欲が出てくる。少し筋肉がついたら、もっとつけたくなって歯止めがきかなくなる。アナボリックステロイドは危険な薬なので、筋肉増強外来などできちんと血液検査や状況を確認してもらいながら、慎重に行うべきだ」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)