もし転勤が告げられたら、あなたは会社員として「当然」と受け入れるだろうか?

【映像】“行きたくない会社”の特徴2位「転勤が多い」、1位は?

 「転勤ある会社は確かに嫌だわ…」「転勤嫌すぎるよね…基本断れないし」

 SNSにこんな声があがるなか、来年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象にした「転勤」についてのアンケートで、転勤のない企業は「志望度が上がる」と回答した学生が51.9%に上った。「どちらかと言えば志望度が上がる」を合わせると、実に8割に迫る。

 テレワークの普及や終身雇用が当たり前ではなくなりつつあることを受け、「転勤」への意識も変化してきているようだ。

 そもそもなぜ、“転勤”は必要なのか?

 ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 河岸秀叔研究員は「一つは人材育成。例えば、地方に行って自分がプレイヤーとして働いたり現場を知るという『そこでしかできない経験』ができるケースも。もう一つは事業都合。これはポストが空いたときに他の社員をそこにあてるケースなどだ」と説明。

 かつては「やむを得ない」と思われがちだった“転勤”だが、従業員側の考え方はここ10年で大きく変化している。

 マイナビの大学生就職意識調査では「行きたくない会社」の特徴として、「転勤が多い」が第2位に。これは、2015年卒業の学生に向けた調査と比較すると、会社を選ぶうえでの重要度が上がっていることがわかる。

 また、4月に行われたエン・ジャパンの調査では「転勤は退職のキッカケになる」と回答した人はおよそ7割にも上っているという。

 変化の理由について河岸研究員は「共働きの増加」「親の介護の広がり」があるのではと分析する。夫婦どちらかに転勤辞令が出たときに、配偶者が辞める選択をすれば家計負担が大きくなり、単身赴任となれば、ワンオペ育児となり子育てがしづらくなる。また、超高齢社会の中で仕事をしながら介護をする人も増えてきているという。

 そんななか、ことし4月から労働条件明示のルールが変わった。企業は雇用・募集の際、今後就業する可能性のある場所の告知が義務に。これにより、従業員はライフプランが立てやすくなる。

 人材不足が問題となっている昨今、転勤制度は採用活動で不利になるため、企業も独自の制度を設け、見直しを急いでいる。

 東京海上日動火災保険は、2026年までに本人の同意のない転勤を廃止する方針。ニトリホールディングスは、就業する地域を首都圏か関西圏に限定しエリア内で転居することなく働ける“マイエリア制度”を導入。そして、全国への転勤を前提に総合職を採用してきた大手金融機関でも、転勤に伴う一時金の増額や導入を決める動きが広がりつつあり、人材をつなぎ留めたい考えだ。

 今後、企業はどのように“転勤制度”と向き合う必要があるのか?

 河岸研究員は「『転勤の検証』がスタートになってくる。つまり、本当に必要な転勤と実はそうではないものに分けることができるかもしれない。そういったものを一度見直してみて、本当に必要な転勤に対しては従業員に対してしっかり説明をする。納得感をもって転勤をしてもらう仕組みが必要なのでは」と述べた。

 厚労省は2017年に転勤のあり方について、「移動の目的・状況の確認」「転勤に関する取り扱いの状況」「異動の目的・効果の検証」など、現状を確認し、検証することが必要だとしている。 

 日本大学危機管理学部教授/東京工業大学特任教授の西田亮介氏は、これまでの「転勤」=「やむを得ないもの」という認識について「日本独自の労働習慣だ」と指摘する。

 「業務内容をはっきりさせないままの就職は現在までに多発していたはずだ。労働契約は書面であるはずだが、手元にある人も、はっきり覚えている人もそれほど多くはなく、そもそも労働契約を結んでる場合においても簡易にしか書かれていない場合もよくある。それに対して、海外におけるジョブ型雇用などでは、『転勤した場合、このような条件になる』といったことが事前に契約書に記されていることが多い。本人が希望しない、納得感が生じにくい転勤がある日本とは事情が異なることが多いが、人手不足で離職者を減らすためにも今後は日本企業も自社の人員計画と社員の希望の両立を、例えば転勤手当などをうまくインセンティブとして活用するなど実現する必要がある」
(『ABEMAヒルズ』より)