世界遺産の熊野古道が通る和歌山県田辺市中辺路町近露で、同地区に支店を構える旅行会社が田んぼの維持に協力する取り組みを始めた。多くの観光客が目にする田んぼで、地元の小中学生も体験学習で利用している。住民の高齢化などで維持が困難になってきたことから「景観を守り、地域に恩返ししたい」と協力を申し出た。

 田んぼは、近露に住む尾中彦孝さん(76)が所有・管理する約35アール。近露王子公園の近くにある。この田んぼの一部では毎年、尾中さんや地域住民の協力で、地元の近野小学校と近野中学校の児童生徒が米作りを体験してきた。しかし、尾中さんの体力が衰えて住民も高齢化しているという。
 田んぼの維持に協力するのは、主に訪日旅行を扱う「奥ジャパン」(本社・京都市)。2015年春、近露に「熊野古道支店」を開設した。支店責任者の内田亮さん(42)は「熊野古道のツアーを作って地域の方に大変お世話になっている。その恩返しがしたい」と話す。水路の手直しをしたり、田起こしをしたりして、田植えに向けた準備を進めていた。
 この田んぼでは17日、近野小学校(松本静香校長、19人)と近野中学校(谷上浩正校長、14人)の子どもたちが苗の手植えを体験。地域住民のほか、奥ジャパンの社員3人も参加した。中学生が植えたもち米は、地域の秋の恒例イベント「近野まるかじり体験」で販売する餅の原料になる。
 近野小6年の中本寿さん(11)は「何とかこけずにみんなで仲良く田植えができた。秋の稲刈りも楽しみ」と笑顔。近野中3年の前リュウキさん(14)は「(3年生なので)今回で最後の田植えになると思うけど、楽しかった。おいしいお餅が作れるように頑張りたい」と話した。
 内田さんは「子どもたちが楽しんでくれてうれしい。米作りは初めてなので、今年はしっかりと勉強し、来年からはメインで取り組めるようになりたい」と意気込む。尾中さんは「病気をしたこともあって体力に自信がなく、今年は米作りをやめておこうかとも思ったが、協力を申し出てくれて大変うれしかった。熊野古道の景観にとって欠かせない田んぼなので、ぜひ頑張ってほしい」と期待する。
 収穫は10月の見込み。近野まるかじり体験に向け、久しぶりに稲わらを積み上げる「わら塚」を作ることも計画しているという。