少子化対策として国や自治体による様々な支援があります。子育てをしている世帯にとってはありがたいことですが、実は自治体によって支援内容が異なることから、住む場所によって大きな差が生じています。どのような違いがあるのか確認しておきましょう。

■子育て支援策の種類はいろいろ
少子化対策の必要性は国も都道府県も市町村も十分に感じています。そこで、子育てにかかる費用を支援したり、生活支援をしたりして、子育てしやすい環境の確保に努めています。

具体的に支援策がどう違うのか、東京都のケースを例に確認してみましょう。

■1. 支援策の一例|東京都
東京都は、これまであった支援の所得制限を撤廃し、2024年度から授業料の「実質無償化」を決定しました。

▼医療費助成制度(マル乳・マル子・マル青)15歳(15歳の3月31日)までの医療費の自己負担分を助成するマル乳(乳幼児医療費助成制度)、マル子(義務教育就学児医療費助成制度)。入院時の食事療養標準負担額は対象外。

15〜18歳(15歳の4月1日〜18歳の3月31日)を対象とするマル青(高校生等医療費助成制度)は、通院1回につき200円(最大)の負担が必要。

▼幼児教育・保育の無償化《国》小学校就学前の3年間(3〜5歳)の幼稚園、保育所、認定こども園などを利用する全ての子どもたちの利用料が無料。

▼児童手当《国》中学校修了までの児童を監護、養育している人に対し、子どもが0〜3歳未満は一律1万5000円、3歳〜小学校修了前は1万円(第3子以降は1万5000円)、中学生は一律1万円支給。所得制限あり。

▼018(ゼロイチハチ)サポート都内在住の18歳以下の子どもに対し月額5000円(年額6万円)を支給。

▼私立中学校等授業料軽減助成私立中学校などに通っている生徒の授業料の一部(10万円)を助成。親子共に都内在住なら都外へ通学でも対象。2024年度から所得制限撤廃を決定。

▼私立高等学校等授業料軽減助成私立高等学校などに通っている生徒の授業料(最大47万5000円)を助成。親子共に都内在住なら都外へ通学でも対象。2024年度から所得制限撤廃を決定。

■2. 支援策の一例|東京都奥多摩市
都内の区市町村では、国や東京都の支援内容に上乗せして、プラスアルファの支援策を用意するケースもあります。奥多摩市の支援策を一例に紹介しましょう。

▼子育て応援住宅使用料(家賃)月額5万円(中学生以下の子ども1人につき5000円減額)で22年間住み続けると、一戸建て住宅を無償譲与。43歳以下で地域活動に積極的に参加することなどの要件あり。

▼移住・定住応援補助金定住目的で新築・増築・購入した場合の借入金に対し、年額33万円を上限に3年間利子補給。

▼町内の学校に通う児童生徒の通学費を全額助成通学に利用する公共交通機関の費用について。

▼中学生制服等支援事業奥多摩中学校に入学(転入含む)する生徒の制服などの購入費用を助成。

▼学校給食費助成事業町立学校に通学する児童生徒の給食費を全額助成。ただし他制度の助成を受ける保護者を除く。

▼医療費助成(マル乳・マル子・マル青)18歳(18歳の3月31日)までの医療費の自己負担分を全額助成。入院時の食事療養標準負担額は対象外。

▼高校生等通学定期代助成事業電車・モノレールの定期代を助成。町内のバスの定期代も助成。

▼高校生等通学支援事業通学時にタクシーを利用した際の料金の一部、または自家用車などを利用した際のガソリン代の一部(ガソリン券)を助成。共に年間5000円が上限。

奥多摩市の他にも、国・都道府県・区市町村が実施している子育て支援策はたくさんあります。多くの場合、自ら申請手続きが必要になるので、情報を細かくチェックして、支援対象になっている場合は欠かさずに手続きしたいところです。

■3. 一都三県で比較する高校授業料の軽減制度
子育て支援策の内容は、都道府県や区市町村によってもかなり異なります。一例として、高校授業料の軽減制度をみてみましょう。

国の子育て支援策として「高等学校等就学支援金」があり、授業料の一部を支援して家庭の教育費負担を軽減しています。現在、全国の約8割の生徒が利用しています。

この支援制度によって、公立学校に通う生徒は公立高校授業料相当額の年11万8800円が支給されて授業料負担が0円になります。

私立学校に通う生徒は、保護者の年収が約590万円未満の場合は年39万6000円、約590万〜約910万円未満の場合は11万8800円支給されます。年収が約910万円を超えると対象外となります。

続いて、一都三県が国の制度とは別に実施する支援制度を紹介します。比較してみると、支援内容は全て異なっています。これに加えて区市町村にも上乗せ制度があるかもしれません。

▼東京都の場合上記した国の就学支援金に上乗せで「私立高等学校等授業料軽減助成金」があります。

保護者の年収が約910万円未満の場合、国の支援金と合わせて47万5000円になるまで支給され、年収が約910万円以上の場合は、多子世帯(扶養する23歳未満の子どもが3人以上いる世帯)のみ5万9400円が支給されていました(保護者も生徒も都内在住であれば、都外の学校へ通学する場合も対象)。

2024年度からは保護者の所得制限が撤廃され、実質授業料無償化となりました。

▼千葉県の場合国の就学支援金に上乗せで「私立高等学校等授業料減免制度」があります。

保護者の年収が約640万円未満の場合は国と合わせて授業料全額分が支給され、約750万円未満の場合は授業料の3分の2(月額2万500円が上限)が支給されます。

千葉県ではこの他に「私立高等学校入学金軽減制度」があり、年収約350万円未満の場合は入学金(15万円が上限)が支給されます。ただし、保護者と生徒が千葉県内在住であっても県外の学校へ通学する場合は対象外となります。

▼埼玉県の場合国の就学支援金に上乗せで「父母負担軽減事業補助金」があります。

保護者の年収が約500万円未満の場合、施設費など納付金の補助を20万円まで受けられ、年収590〜720万円未満の場合は授業料に26万8200円の上乗せがあり、国と合わせて38万7000円まで支給されます。

埼玉県にも入学金補助があり、年収約609万円未満の場合は10万円補助してもらえます。しかし、保護者と生徒が埼玉県内在住であっても、県外の学校へ通学する場合は対象外となります。

▼神奈川県の場合国の就学支援金に上乗せで「学費補助金」があります。

保護者の年収が約700万円未満の場合、国と合わせて46万8000円まで支給され、年収約700万〜750万円未満の場合は19万3200円(多子世帯のみ46万8000円)支給、年収が約750万円を超えると県の補助金は対象外(多子世帯のみ約910万円まで46万8000円)となります。

神奈川県にも入学金補助があり、年収750万円未満の場合は10万円補助してもらえます。しかし、神奈川県も県外の学校へ通学する場合は対象外となります。

■4. 一都三県、子育て世帯が住むべき場所とは?
高校生の授業料支援策だけを見て住む場所を決める人はいないでしょうが、子育て支援策は充実している方が当然良いです。ただし、どこが良いかはさまざまな支援策があるので簡単には判断できません。

▼高収入世帯の場合上述した高校生の授業料支援策では、東京都で保護者の年収制限が撤廃されることで、高収入世帯は東京都に住んだ方が多くの支援を期待できます。

▼世帯年収が約500万円未満の場合授業料が年39万6000円(国の制度)、施設費など納付金補助20万円、入学金補助10万円受けられる埼玉県が一番多く支援してもらえそうです。

また、東京都だけが県外通学も支給対象にしているので、高校への進路選択の時に多くの選択肢を確保できます。ただ、高校生活は3年間なので、恩恵を受けられるのは基本的に3年間しかありません。

■まとめ
子育てをするのに最適な場所を選ぶなら、子どもが産まれてから巣立っていくまでトータルで考える必要があります。

さらに経済面だけでなくソフト面や保護者の通勤のしやすさ、教育環境など、考慮したい項目はたくさんあります。住む前に納得できるまで調べてみるのがいいですが、結局は、住みたいところに住むのが一番なのかもしれません。

▼松浦 建二プロフィール大手住宅メーカー、外資系生命保険会社を経てコンサルティング会社設立に参加。2002年からファイナンシャルプランナーとして主に個人のライフプラン、生命保険見直し、住宅購入等の相談業務、また講演や執筆等を行う。青山学院大学非常勤講師。

松浦 建二(ファイナンシャルプランナー)