山口信夫さん(81)は刑事部長を最後に島根県警を退職後、松江市の川津小学校に登校する児童の見守りを続けて18年になる。4月、「見守りの悦(よろこ)びと涙 行ってお帰り」を出版した。

 執筆のきっかけは、見守り活動中だった2人のボランティアの事故死だった。2017年1月、島根県益田市で、集団登校の児童らに酒気帯び運転の車が突っ込み、児童をかばった三原董充(ただみつ)さん(当時73)が死亡した。三原さんはその34年前、現場近くで小2の次女を交通事故で亡くしていた。

 もう1人は、警察官時代の先輩で同じ見守り隊のリーダーだった小山栄さん。三原さんの事故の数日前、松江市内で見守り活動中に凍結した路面で転倒。1年2カ月後に86歳で亡くなった。

 「安全な活動はどうやって保たれるのか」という思いから執筆を始めたという。

 三原さんの家族や友人らに取材し、石見神楽の指導役としても親しまれたその生涯を物語風に書き上げた。小山さんの献身的な取り組みのほか、児童の見守りに関する松江市と島根県大田市川合町の先進事例も紹介。通学路の環境改善、安全マップ、青パト活用など、見守り活動の「手引き」にもなる本に仕上がった。また、活動者に対する安全誘導教育の必要性や位置情報発信機の活用など、「新しい時代の見守り」も提言した。

 偶然の誘いを受けて始めた自身の見守り活動の日々もつづった。悩みを聞いてあげて卒業時に感謝をつづった手紙をもらったり、傷つける言葉を発して悔やんだり。暴走車から子どもを守るため雨の日も傘は持たないが、「おじさん、ランドセル開けて。コウモリがあるでしょう、出して」と小2の児童から傘を受け取る逸話は心が温まる。

 見守り活動を通じ、「子どもやお年寄りに、みんなで声を掛け合える社会にしたい」と話す。(垣花昌弘)

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 島根県川本町出身。島根県警では益田署長、交通部長、松江署長、刑事部長などを歴任。退職後、松江城や松江藩にまつわる歴史小説を3冊出版した。「行ってお帰り」は今井出版刊。A5判、350ページ。2200円。