三洋化成工業(京都市)と広島大学病院は21日、加齢やスポーツなどで損傷したひざの半月板に人工たんぱく質を注射して再生を促す治験を来春から始めると発表した。実用化されれば、半月板を温存する新たな治療法になる。医療機器としての薬事承認などを経て早ければ2027年の実用化をめざすという。

 半月板はひざ関節でクッションの役割をしている。損傷すると自然治癒が難しく、断裂部を縫い合わせたり、やむを得ない場合には切除したりする。半月板損傷が発症原因の一つである「変形性膝(ひざ)関節症」の潜在的な患者は国内に約3千万人いるという。運動機能が衰えて要介護状態につながる「ロコモティブシンドローム」の原因にもなりうる。

 治験で用いるのは、三洋化成が医療分野への応用を研究してきた「シルクエラスチン」という人工たんぱく質。ヒトの皮膚に張りや弾力を与えるたんぱく質と、シルク(絹)の原料となるたんぱく質の分子構造をまねて遺伝子組み換え技術で作製。半月板の縫合部に注入すると、治癒能力を持った細胞を周辺部から呼び集め、半月板が自力で再生する足場になるという。

 2022年からの医師主導治験では、半月板損傷の患者8人(17〜52歳)のうち6人で術後3カ月には断裂部が完全に癒合し、安全性も確認されたという。今後は治療方法として有効かどうか確認する企業治験へ移る。京都市で記者会見した広島大病院の安達伸生院長(整形外科学)は「本来ならば縫合しても良い結果が得られにくいような非常に難しい症例をあえて選んで実施したにもかかわらず、驚異的な結果だった」と語った。