経営が悪化して営業を停止した山形県南陽市の保養施設「旧ハイジアパーク南陽」の再生事業が、中止されることになった。施設を市から購入して事業を進めてきた山形市出身の工業デザイナー、奥山清行氏が社長を務める「四季南陽」(南陽市)や市が21日、2021年9月に結んだ施設の売買契約を解除することで合意したと明らかにした。

 旧ハイジアパーク南陽は日帰り温泉やプールを備えた施設で、1992年にオープン。市の第三セクターが運営していたが、経営が悪化して2021年3月に営業を終えた。

 再生に向けて同年9月に奥山氏側と売買契約を締結。現在立つ本館は改修して文化施設に、隣には建築家の隈研吾さん設計のホテルなどが入る新館を建設する計画だった。だが、コロナ禍や建築資材の高騰を受け、新館の開業は延期になっていた。

 この日、同社と市などが共同で記者会見を開き、計画を断念した理由を説明した。

 出席した奥山氏によると、昨年8月に県の立ち入り検査で本館の床に使われた接着剤からアスベストが検出された。追加検査で、本館には広範囲にアスベストが含まれる建材が使われていることがわかり、一部では露出が認められたという。

 奥山氏は「アスベストが含有・露出する施設に集客する計画を進めることは企業コンプライアンスの観点から許容できないと判断した」と説明。アスベスト含有建材の撤去費用を試算したところ、「会社の存続に関わる」ほど高額になる見通しのため、契約解除を申し入れた。

 再生事業に関して、これまで市側は約6千万円、奥山氏側は約1億円を支出。かかった費用は双方に請求しないことで合意したという。

 奥山氏は「南陽を世界ブランドに、という目標は変わらない」と強調。今後は市と包括連携協定を結び、地場産業の活性化や商品開発、国内外への情報発信、デザインと芸術によるコミュニティーづくりなどに取り組む考えを示した。

 一方、白岩孝夫市長は施設活用について「現時点で具体策はなく、しっかり検討していく。事業はハードからソフトをベースにした取り組みに生まれ変わるととらえている」と述べた。(大谷秀幸)