38年前に福井市で中学3年の女子生徒(当時15)を殺害したとして懲役7年の判決が確定し服役した前川彰司さん(58)の再審請求について、名古屋高裁金沢支部は18日、弁護側と名古屋高検金沢支部との三者協議を開いた。弁護側と検察側双方はこの日、最終意見書を提出し協議は終結したという。高裁金沢支部は今秋にも裁判のやり直しを認めるかどうかの決定を出す可能性がある。

 事件をめぐっては、発生から約1年後の1987年3月に福井県警が前川さんを殺人容疑で逮捕した。前川さんは一貫して無実を主張。前川さんと事件を直接結ぶ客観的証拠はなく、公判では「事件の夜、血のついた前川さんを見た」などとする知人らの供述の信用性が争われた。90年の福井地裁判決は無罪としたが、95年の高裁金沢支部判決は「大筋は一致している」として有罪とし確定した。

 前川さんは2004年に最初の再審請求をし、11年には高裁金沢支部が裁判のやり直しを認めた。ただ検察側が異議を申し立てて13年に決定が取り消され、翌14年に棄却決定が確定した。

 前川さんは22年10月、高裁金沢支部に2度目となる再審請求をした。弁護団によると、これまで開示されていなかった捜査報告書など計287点が検察側から示されたという。弁護団はその一部に加え、関係者の供述との矛盾を示す血液反応に関する鑑定結果など計133点を「新証拠」だとして最終意見書に盛り込んだ。

 開示された捜査資料から、前川さんの有罪判決の根拠となった元暴力団組員の供述について、当初取り調べを担当した刑事3人が「供述は信用できない」としていたことがわかったという。また今年3月には非公開で知人男性の証人尋問も行われた。有罪判決が出された控訴審に出廷する際、「調書通りに話してほしい」と警察から持ちかけられたと証言したという。この知人の調書は有罪判決を支えることになった。

 一貫して無実を訴えている前川さんはこの日の記者会見で、「まだ審理は終わっていないが、この段階で言うとすれば『初志貫徹』です」と語った。弁護団の吉村悟弁護士は「(前川さんが犯人であるなら)あるべき物証が何もない」と説明。開示された捜査資料について、「膨大に出てきた。この事件は警察と検察が一体となり不都合な証拠隠しをしたと言える」と語った。(椎木慎太郎、鎌内勇樹)

 〈福井女子中学生殺人事件〉1986年3月19日夜、福井市営住宅の一室で、1人で留守番をしていた中学3年の生徒(当時15)が五十数カ所を刺されるなどして死亡した。福井県警は約1年後、21歳だった前川彰司さんを殺人容疑で逮捕した。前川さんと事件を直接結ぶ客観的証拠はなく、「血のついた服を着た前川さんをかくまった」といった知人らの供述が有罪判決の根拠となった。