【福岡】2022年に北九州市小倉北区の旦過市場一帯で起きた2度の大火のうち、最初の発生から19日で2年。火災の影響で遅れていた再整備への動きが本格化してきた。新施設の建設に向け、被災を免れた市場南側の建物の解体が今夏に始まり、市立大も市場内での新学部設置を検討。復興と新たな魅力創出への期待が高まるが、課題もある。

 火災は22年の4月19日未明と8月10日夜に発生。いずれも市場に隣接する新旦過横丁の飲食店から出火し、合計で空き店舗を含め87店舗、5千平方メートル以上が焼けた。

 がれきの撤去後、市はその跡地に仮設店舗「青空市場」を整備。被災店や再整備事業のため立ち退いた店などが入居・営業している。そこで購入した総菜を食べたり、記念撮影をしたり。楽しむ来客が見られるようになり、「北九州の台所」としての、にぎわいを取り戻しつつある。

 再整備は21年、市が事業計画を決定した。市場の老朽化を踏まえて商業施設を新設し、市場脇を流れる神嶽(かんたけ)川からの浸水被害を防ぐため、河川改修も実施。市場を南北に通るアーケード(図(3)内)を東側にずらし、店が川にせり出した現状も解消させるという内容。

 各店の営業に支障が出ないよう市場を4区画に分けて順次、解体・建設をする工程で、23年度には最も早く着手する市場南側のエリア(図(1))に、市が4階建て商業施設を建てる予定だった。

 だが、2度の火災で対象エリアの店舗も一部被災し、動きはいったん中断に。その間、市は青空市場を建て、そこに被災店舗や図(1)のエリアから仮移転した店が入った。市によると、図(1)エリアの移転補償交渉は8割ほど終了。今夏に建物の解体に取りかかり、今年度中の施設着工を目指す。

 また、2番目に着手予定のエリア(図(2))も同じ時期に解体する方向で調整を進めている。火災の影響などで安全が確認できないためという。

 ■市立大が進出検討も、見えぬ将来像

 今年1月には、市場関係者が「渡りに船」と喜ぶ発表があった。

 高度なデジタル人材を育成する新学部「情報イノベーション学部(仮称)」を北九州市立大が新設するという内容。市場側は、エリア(2)に整備する建物に新学部が入居してくれることを要望している。

 「昼間の滞留人口が確実に増え、ITを学ぶ若者と市場でどういう化学反応が起きるかも楽しみ。市場にとってデメリットはない」と旦過市場商店街の中尾憲二会長(58)は期待する。

 ただ、再整備に向けては課題も多い。

 施設建設のほかに、どうやって市場の魅力をアップするのか。具体像は明確になっていない。資材高騰の影響で、再整備事業の総事業費は当初より13億円上がり、47億4900万円に。市場関係者から費用の増加や計画の遅れを不安視する声が出ている。

 そうした状況を受け、武内和久市長は昨年11月、「再整備事業計画を見直し、グレードアップする」と発表。自ら市場に足を運んで店主らの話を聞き、「春までにまとめる」とした見直し案はまだ示していない。今月11日の市長会見では「(市場関係者と)ミーティングを重ねており、検討結果を踏まえてしっかりと考えたい」とした。

 再整備への動きを受けて廃業した店主や、別の市場へ移った店主もいる。旦過市場で約100年続く角打ちの店「赤壁酒店」の森野敏明さん(46)は「市場の古い雰囲気が好きで来てくれる人は多い。新しい市場はどうなるのだろうか」。再整備後の市場に入居するか、決めかねているという。(城真弓)

 2年の節目となった19日には、北九州市消防局による火災予防活動があった。職員が旦過市場内の各店を回り、消火器の設置状況や火元の清掃状況などを確認してまわった。旦過市場商店街の中尾憲二会長ら役員も同行し、チラシを配って注意を呼びかけた。中尾会長は「気持ちが緩むこともあるかもしれない。気をつけて商売してもらいたい」と話した。

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 〈旦過市場〉 大正時代初期、玄界灘でとれたイワシを積んだ舟が、神嶽川の川岸に荷揚げし商売を始めたのが始まりとされる。小売店が集まり、自然と市場が形成された。2022年の火災前には、八百屋や精肉店、飲食店など110店舗ほどが密集していた。