岡山県倉敷市出身で映画監督の平松恵美子さん(57)がこの夏、オール倉敷ロケの長編作品「蔵のある街」を撮影する。ヤングケアラーの友人を励ますため、美観地区で花火を打ち上げようと奮闘する高校生の夏物語。来夏公開予定で、出演者の一部を県内からも募っている。

 紅子(べにこ)と蒼(あおい)と祈一(きいち)は幼なじみ。紅子は自閉症の兄をサポートしながら高校に通う。

 兄は打ち上げ花火が見たくて高い木に登って大声をあげる。蒼と祈一は「花火を打ち上げてみせる」と軽口をたたくが、やがて本気になって大人たちを動かすために奔走する。同じ目標に向かって地域が一つになっていく姿を、約110分で描く。

 平松さんは倉敷南高、岡山大卒。脱サラ後、山田洋次監督のもとで助監督や脚本を務めた。監督として「ひまわりと子犬の7日間」(堺雅人主演)や「あの日のオルガン」(戸田恵梨香主演)を手がけた。

 若者が声をあげると、大人たちはその心意気にのる。倉敷は昔からそんなまちだと平松さんは考える。「(倉敷紡績〈現クラボウ〉社長などを務めた実業家の)大原孫三郎さんの時代から、若者のために無償の行為をできるのが倉敷」。花火の打ち上げという一大プロジェクトで、そんな「倉敷らしさ」を表現しようと思い立ったという。

 地元の同級生らから「コロナ禍で停滞した地域の再起の一助に」と映画制作の打診を受け、快諾。実行委員会を立ち上げ、昨夏には物語を短縮したパイロット版をつくった。PRに活用して企業や行政の協賛を募り、約7千万円の制作費調達にめどが立ったという。

 主人公ら主要キャストは6月に発表する。倉敷出身のMEGUMIさんや前野朋哉さんのほか、橋爪功さんの出演が決まっている。その他十数人の出演者を募集しており、6月にオーディションを実施。詳しくは映画のホームページ(https://kuranoarumachi.com/)で案内している。

 パイロット版は美観地区や水島コンビナート、児島のジーンズ工房、玉島のドラム缶橋など、倉敷っぽさが表れる場所で撮影された。「若者たちを支える大人がいるまちであり続けてほしい」。ふるさとのいまの姿を残すとともに、そんな願いを込めた作品にしたいと平松さんは話す。(小沢邦男)