【2024年5月13日 情報通信研究機構/片岡龍峰さん/すばる望遠鏡】

日本時間5月8日から11日までの間に、太陽表面の活動領域3663と3664で数十年に一度レベルの大規模フレアが8回発生した。NASAとアメリカ海洋大気庁(NOAA)の静止気象観測衛星シリーズ「GOES-16」では、1975年に始まった同衛星の観測史上初めて、72時間以内にXクラスのフレアを7回観測した。太陽フレアはピーク時のX線強度に基づいてA、B、C、M、Xの5つのクラスに分けられていて、各クラスの大きさは1桁ずつ異なる(たとえばXクラスはMクラスの10倍の強度)。

5月8日〜11日に観測されたXクラスフレア一覧とX線強度の推移
5月8日〜11日までに観測されたXクラスフレア一覧とX線強度の推移(提供:NICT)

5月11日に撮影された黒点群「活動領域3664」とプロミネンス
5月11日に撮影された黒点群「活動領域3664」とプロミネンス(撮影:谷明さん)。画像クリックで天体写真ギャラリー「太陽」カテゴリーのページへ

連続で発生した大規模フレアに伴って、太陽の上層大気であるプラズマガスが大量に噴出する「コロナ質量放出(CME)」も複数回発生した。CMEのガスの速度は秒速100〜1000km、質量は数百億kg〜数百億tにも達する。複数のCMEが合体して地球に到達することから、猛烈な磁気嵐が発生して地磁気が激しく擾乱され、ふだんオーロラが発生する地域より低い緯度にある日本などの各地で強い低緯度オーロラが出現すると期待された。

実際、5月10日に最初の磁気嵐が急激に発生し、翌11日には巨大な磁気嵐がとらえられた。気象庁地磁気観測所では12日までに、磁気嵐に伴う地磁気水平成分の最大変化量を表す指数10段階のうち、上から2番目の「8」を複数回観測した。指数「8」が最後に観測されたのは2005年8月のことで、今回は実に約19年ぶりのことだ。

気象庁地磁気観測所による5月6日〜12日の地磁気指数の暫定値
気象庁地磁気観測所による5月6日〜12日の地磁気指数(K)の暫定値。各棒グラフの色が示す地磁気指数(K)と地磁気活動度は次の通り。(黄緑)指数3以下=静穏、(オレンジ)指数4=活発、(赤)指数5=小規模、(ピンク)指数6=大規模、(紫)指数8=深刻な影響が予想されるもの(提供:気象庁地磁気観測所(柿岡)、NICT)

この磁気嵐の影響により、5月11日に日本をはじめ、アメリカ、イギリス、フランス、中国、オーストラリアなど各地で低緯度オーロラが目撃された。このうち日本では11日夜から12日未明にかけて、北は北海道、南は予想を超えて兵庫県や愛知県で、山の端や水平線上の空をピンクや赤紫色に染めるオーロラとみられるものが写真に記録された。翌12日夜にもオーロラ発生の可能性はあったが、日本は全国的に雨や曇りというあいにくの天気となった。

5月11日に北海道で撮影された低緯度オーロラ
5月11日に北海道で撮影された低緯度オーロラ(撮影:DMNさん)。画像クリックで天体写真ギャラリーの特集ページへ

11日には米・ハワイでも164年ぶりにオーロラが発生し、マウナケア山頂のすばる望遠鏡の全天カメラに収められた。当夜ハワイは雷雨に見舞われたが、すばる望遠鏡は稲妻と雲に囲まれた低高度オーロラをとらえている。ちなみに、164年前にハワイのホノルルとラハイナで観測された低緯度オーロラは、1859年に発生した観測史上最大の磁気嵐「キャリントン現象」によるもので、太陽からの強力な高エネルギー粒子が地球を直撃し、地球全体で大規模なオーロラ現象が観測された。

(Youtube動画)

すばる望遠鏡がとらえた、164年ぶりにハワイで発生した低緯度オーロラの動画「The Aurora Observed from Maunakea, Hawai'i, by the Subaru's All-Sky Camera on Maunakea 2024-5-11」(動画の上〜右上に見られる地平線上の赤っぽい微かな光が低緯度オーロラ)(提供:すばる望遠鏡YouTubeサブチャンネル 管理人_SubaruTel_StarCamAdmin)

NOAAは12日に磁気嵐のレベルが下がったという観測結果を発表しており、低緯度オーロラをもたらした磁気嵐はピークを越えたようだ。国立極地研究所/総合研究大学院大学の片岡龍峰さんも、12日付けの自身の「X(旧Twitter)」で、「数十年に一度の猛烈な磁気嵐のピーク直後・最終盤でのオーロラの低緯度への異常な広がりが明らかになりました。磁気嵐は、猛烈でないレベルに落ち着きつつあります」とポストしている。

磁気嵐がもたらすのは、美しいオーロラという私たちの目を楽しませてくれる現象だけではない。NOAAでは、今回の磁気嵐による電力供給システムやGPSなどへの影響の報告が米国内であったと発表している。スペースX社でも、スターリンク衛星によるインターネットサービスに影響があったと報じられた。

約11年の周期で活動している太陽は、来年2025年にかけて活動のピークを迎え、それに伴って強いフレア発生の頻度が高くなるとみられる。今後しばらくは、通信衛星やGPSなどへの影響のおそれもあるが、オーロラの観測には大きな期待が持てるだろう。