5月20〜21日にエビスサーキット西コースで開催されたFDJフォーミュラドリフトジャパン第2戦で、初出場のWRC世界ラリー選手権王者カッレ・ロバンペラ(KR69 CUSCO Racing)が衝撃のデビューウインを飾った。

 ロバンペラは前週WRCラリー・ポルトガルで優勝した後すぐ日本に飛び、水曜日からエビスサーキットで練習およびクルマの開発作業を開始。クスコが彼専用に開発した『レッドブルGRカローラ』で精力的に走り込んでいた。

 日曜日の本戦に向けての予選でもある土曜日の単走で、ロバンペラはウエットの午前、ドライの午後ともに最高得点を記録。とくに、午後の走行では100点満点中97点を獲得(2位はKANTAの92ポイント)するという、段トツのハイスコアでライバルとファンを驚かせた。

 そして迎えた決勝トーナメントは2台同時走行の追走方式。そこでロバンペラは、初めて対戦する日本人選手たちの“走りのクセ”を瞬時に把握し、キャリブレーションを行いながらトーナメントを勝ち上がっていった。そしてファイナルでは、エビスサーキットの主である熊久保信重氏が率いるチーム・オレンジの小橋正典(GRスープラ)と対戦。先行の小橋がコースオフを喫したことで、ロバンペラがFDJ初出場初優勝を決めた。

■タイヤを横方向に使わない、ラリードライバーならではのドリフト

「エビスでドリフト大会に出ることが夢だったから、優勝できて最高の気分だよ」と語ったロバンペラ。

「日本人選手は皆すごくレベルが高かったけれど、僕が出ているヨーロッパのドリフトマスターズのドライバーたちとは走り方が全然違うから、合わせるのがけっこう難しかった」

 ロバンペラの走りは、ドリフトアングルはやや浅めながらもスピードが非常に高く、何よりも追う際の先行車との距離が無慈悲ともいえるほど近かった。

 まるでマグネットで吸い付いているのではないかと思えるようなその走りは、相手にどのようにでも合わせられる抜群のマシンコントロール技術があってこそ。フルカウンター状態で前輪どうしが当たりそうなくらいの近さだった。

「自分たちは負けてしまいましたけど、本当にすごい走りでした。ラリードライバーならではのドリフトですね」と、チーム・オレンジの熊久保代表。

「タイヤを横方向にまったく使わず、縦方向にしかグリップを使っていない。縦方向でバランスをとってうまくコーナリングしていました」

「自分たちもそういう走りかたを目指してやってきましたが、ロバンペラ選手は左足ブレーキの使い方が素晴らしくて、リヤを沈めたり、フロントを安定させたりだとか、とにかく荷重コントロールが抜群にうまかったです」

「自分たちにとってはすごくいい収穫でしたし、クルマづくりも含めてちょっと変わっていくと思います。日本のドリフトも今回のことがキカッケでレベルアップする気がします」

■アクセルではなくブレーキで姿勢を制御

 マシンを開発したクスコのスタッフによると、ロバンペラはアクセルをあまり踏み戻しせず、エンジンの回転数を高く保ったまま左足ブレーキで姿勢をコントロールしているようだ。

 とにかくラインのトレース精度が圧倒的に高く、熊久保代表によれば「僕たちはリヤだけで角度をコントロールしようとしますが、ロバンペラ選手は左足ブレーキを活用し、スピンコントロールで角度を調整しています」という。その他にもWRC由来のさまざまなテクニックを駆使していたが、それについては改めて別の機会に解説したい。

「ラリーって道幅が急に狭くなったり、コーナーの角度が一定でなかったり、路面のミューがどんどん変わるじゃないですか。そういうところを普段から全開で走っているわけだから、コースが決まっていて、ミューも安定しているサーキットなんかロバンペラにとっては簡単に感じるんじゃないですかね」と、現場で解説を担当していた谷口信輝選手。ロバンペラがヨーロッパから、そしてWRCから持ち込んだテクニックによって、日本のドリフト界は流れが大きく変わるかもしれない。