◆ 球団史上初の横浜スタジアムで「1−0」完封

 単なる1勝以上の価値を持つ“シャットアウト”だった。

 12日のベイスターズ戦に先発したタイガースの才木浩人は、最後までマウンドを守り続けた。

 本塁打が出やすく、乱打戦になることも少なくないバッターズパークとして知られる横浜スタジアムでの「1−0」での完封は、球団史上初。

 128球で9イニングを投げ切った右腕は「(チームを)救ったかどうかはあれですけど、昨日の展開の後だったんで、きっちりいかないといけないというか締めないといけないと思ってたんで良かったです」と力強くうなずいた。

 「締めないと」のフレーズが意味していたのは前日の悪夢に他ならない。序盤からワンサイドでゲームを進めるも、8回に岩崎優、岡留英貴が計3被弾を食らって一時は最大7点あったリードを逆転される痛恨の敗戦を喫していた。

 そんな中、才木は相手が会心の勝利で手にした「勢い」を逆手にとって快投につなげた。

「早いうちにまっすぐを狙ってくるところを変化球でカウントを整えることができた」

 前日の勢いそのままに直球を早いカウントから狙ってきた相手打線の打ち気をそらすようにスライダー、フォーク、カーブの変化球を主体にマスクをかぶった梅野隆太郎とともに投球を組み立てた。

「相手の頭の中に変化球がある中で直球で押すこともできたので」

 中盤以降は、一番の武器である直球を要所で投げ込んで圧倒し、最後まで的を絞らせなかった。


◆ 変化球が“スパイス”に今までにないスタイルの確立へ

 才木は、最速157キロを誇る直球と長身を生かした落差あるフォークを駆使する本格派。次代のエースとして期待される25歳だが、今季は精度向上が見られる変化球が“スパイス”となって効いている。

 本人が「まじでなんで良くなったのか分からない」と苦笑いを浮かべるスライダーはカウントを稼ぐボールとして機能し、直球を待つ打者に対して裏をかく勝負球としても使っている。そこに入団以来、習得に励んできたカーブで緩急もつけられる。

 横浜での完封で投じた128球のうち、半分以上が変化球。才木本人も「こういう投球ができたのはデカいですよね。1つの引き出しになるので」と今までにないスタイルの確立に手応えをにじませた。

 何より、負ければ3カード連続の負け越しだった一戦での1勝。打線はわずか2安打1得点だっただけに岡田彰布監督も「ヒット2本やんか。それでよう勝ったよ。才木さまさまよ、はっきり言うて。それしかないよ」と目を細めた。

 20年に受けた右肘のトミージョン手術から復帰3シーズン目を迎えた背番号35。潜在能力が一気に花開く1年になりそうだ。


文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)