力強さと柔らかさを兼ね備える打撃



育成新人ながら阪神二軍で四番を担うことが多い野口

 18年ぶりのリーグ優勝に向け、首位をひた走る阪神。ドラフト1位ルーキー・森下翔太が打線の中軸として奮闘しているが、将来が嘱望される右の大卒1年目スラッガーは森下だけではない。育成入団1年目でファームの四番を張っている野口恭佑に要注目だ。

 万波中正を参考にしたという脱力したフォームからフルスイングで、バットのヘッドが走る。打球が速く、飛距離も伸びる。今年は2月の春季キャンプ中に左太腿裏を肉離れし、一度は完治したが4月上旬に再発。再び1カ月以上戦列を離れた。5月23日から二軍に合流したが、7月いっぱいが期限の支配下登録を勝ち取れず。だが、落ち込んでいる暇はない。8月に入ると4本塁打、2度の猛打賞と打撃でアピールし、55試合出場で打率.284、6本塁打、16打点。ポイントゲッターとして四番で活躍している。

 他球団のスコアラーは、「遠くへ飛ばすだけでなく、コンタクト能力も高い。打率も残せる選手だと思います。完成系は中村紀洋さん(現中日二軍打撃コーチ)ですかね。力強さと柔らかさを兼ね備えた打者で、変化球にも対応できる」と分析する。

「はい上がっていくのが、自分の人生」


 野口は九州産業大で1年春からベンチ入りを果たし、2年の冬には日本代表候補合宿に参加。4年の春にはベストナインを獲得している。中大のスラッガーとして注目された森下のようにドラフト上位候補ではなかったが、強い信念はブレなかった。大学卒業後の進路について、週刊ベースボールでこう語っていた。

「プロ志望届を提出します。自分は常に挑戦する道を選んできました。ひたすら前に進んでいく。一つ、目標を決めたら、そのターゲットだけを見て向かっていく。指名していただけるのであれば、育成ドラフトでも、プロの世界に飛び込んでいきたいと思います。入ってからはい上がっていくのが、自分の人生です」

 はい上がっていくのが、自分の人生――。その言葉を体現した野球人生だ。長崎県雲仙市出身で、千々石中の野球部に所属していたときの部員数は7人。大会に出場の際は柔道部、サッカー部、テニス部からの助っ人を借りていた。目立った実績はなく、一般入試で創成館高へ。2年秋にレギュラーをつかむと、九州大会で優勝し、明治神宮大会準決勝で根尾昂(現中日)、藤原恭大(現ロッテ)らタレントを擁した大阪桐蔭高を7対4で撃破し、準優勝を飾った。

 3年春のセンバツでは同校最高成績のベスト8に進出。野口は初戦となった2回戦・下関国際高戦で途中出場だったが、「五番・左翼」でスタメン出場した3回戦・智弁学園高戦でマルチ安打をマーク。続く智弁和歌山高との準々決勝で敗れたが、5打数5安打3打点と大当たりだった。3年夏も甲子園出場を果たした。

トリプルスリーを狙える選手が目標


 あこがれの選手はマイク・トラウト(エンゼルス)だという。「ミート力、パワー、スピード、守備力、送球能力と、5ツールプレーヤーが理想です。トリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)を狙える選手になりたい」と大学2年秋以降、トラウトが着ける背番号27を背負っていた。

 阪神は将来が楽しみな若手野手が多い。森下、小野寺暖が頭角を現し、前川右京、井上広大、高卒ルーキーの井坪陽生、遠藤成、高寺望夢、中川勇斗ら成長株たちが一軍昇格を目指し、ファームで汗を流している。

 激しい競争の中で、野口は支配下昇格を勝ち取ってサクセスストーリーを切り拓けるか。来年に向けての戦いはすでに始まっている。

写真=BBM