高橋由伸と重なるスイング軌道



昨年と比べて今年はバッティングの安定感がグッと増した村松

 2年連続最下位からの巻き返しを狙う中日。5月12日現在、借金2と春先に首位に立った勢いはなくなっているが、混戦のセ・リーグで上位に食い込むチャンスは十分にある。変革の旗印として期待される選手が、プロ2年目の村松開人だ。

 今季は打撃フォームがガラリと変わった。構える際にグリップの位置が上がり、右足を上げてタイミングを取る。タイミングの取り方、スイング軌道が元巨人の天才打者・高橋由伸と重なる。そして、この新フォームで春先から安打を量産している。

 開幕3連戦のヤクルト戦はベンチスタートとなったが、2カード目の巨人戦からスタメン出場し、3試合連続安打をマーク。遊撃のスタメンに定着すると、5月3日からのヤクルト3連戦(神宮)では5打数5安打、5打数4安打、4打数3安打と大暴れ。打率が4割を超えた。打順も八番から二番、六番など打線のポイントを任せられるようになった。規定打席には未到達だが、30試合出場で打率.373、9打点をマーク。出塁率.429と申し分ない数字だ。

 他球団の首脳陣は、村松についてこう分析する。

「昨年はボールとバットが衝突するような打ち方だったが、打撃フォームを変えてタイミングの取り方がしっくりきているのでしょう。懐が広くなり、差し込まれてもバットの面が返らないので三遊間に安打を飛ばせるようになっている。今の打ち方ができているうちは大きく調子を崩すことはないでしょう。首位打者争いのダークホースだと思います」

私生活の過ごし方も変化


 明大からドラフト2位で入団した昨年は二塁でチーム最多の70試合、遊撃でも30試合守ったが、満足感より悔しさのほうが大きかっただろう。打率.207、1本塁打、20打点と打撃に課題を残し、出塁率.252だった。首脳陣の信頼をつかみきれなかったのは、チーム編成からもうかがい知れる。昨秋のドラフトでは2位に津田啓史、3位に辻本倫太郎といずれも二遊間の即戦力内野手を指名。村松は開幕一軍が保証すらされていない立場で、目に見える結果が必要だった。打撃フォーム改造は危機感の表れと言える。オープン戦で打率.286をマークし、遊撃の守備も昨年より安定感がグッと増した。

 プロ1年を経験したことで、私生活の過ごし方も変わった。「寮生活は今年で9年目になります。静岡高で3年、明大で4年、そしてプロで2年目です。昨年まで休みの日は疲れ果てて、昼過ぎまで寝ているなんてことも多かったですけど、今年はなるべく早く起きて活動時間を長くすることを心掛けています。ランチがてら街を散歩していることが多いですね。名古屋だと久屋大通とか矢場町の辺り。歩きながらでも気が付くと野球のことを考えていますね。あのプレーはどうだったとか、今度こういうことをやってみようとか。頭の中が整理されていく感じがします。休日に活動できるようになったのも、多少プロの生活に慣れてきたからかなと思います」と語っている。

我慢強い起用に応える


 昨年我慢強く起用してくれた立浪和義監督に、恩返ししたい気持ちは強いだろう。巨人で昨季打撃コーチを務めていた野球評論家の大久保博元氏は今年2月に中日の春季キャンプを視察し、週刊ベースボールのコラムでこう振り返っている。

「昨年、巨人と対戦したときに僅差のゲームが多かった、という話を以前のこのコラムでもしました。先制点を取ったほうが勝ったというイメージで、それが巨人のほうが多かっただけという印象でした。もし、先に中日の打線に1本出ていたら、シーズンの勝敗数は逆になっていたかもしれません。そんな話を立浪(立浪和義)監督としました。そのときに突然『デーブさん、でもその1本を打つ技術がないとシーズンを勝ち抜けないんですよ』と立浪監督が言ったんです。私もそのとおりだと思います。そこを打てるかどうかが、優勝に絡めるかどうか、になってきます」

「昨年シーズン後半、ある程度順位が決まったあと、立浪監督は選手たちに自分の打撃をさせるために我慢強く使い続けました。相手チームからでもそれがよく分かりました。犠打や、犠飛を指示して1点でも取りたい場面も、あえて選手たちに経験を積ませるために、打たせたりしていました。監督を経験したものとしては、その意図がよく分かりました」

 打撃好調の村松に対し、今後は相手バッテリーのマークがさらに厳しくなる。攻守で躍動し、不動の遊撃手になれるか。

写真=BBM