◆ホーム最終戦はスタメンでコートに立つ

 朱色に染まった広島サンプラザに拍手が鳴り続いた。一人ひとりに感謝を伝えるように丁寧に挨拶をして周り、最後に深くお辞儀をして、溢れ出た涙を拭って、朝山正悟はホームコートを後にした。

 広島ドラゴンフライズは5月4、5日にB1最終節で琉球ゴールデンキングスをホームに迎えた。チャンピオンシップ(CS)進出がかかったレギュラーシーズン最後の2試合。第1戦は序盤こそリードを許したが、堅守で琉球の攻撃を抑えて69−59で競り勝ち、2シーズン連続のCS進出を確定させた。第2戦は、挽回したい前年王者と激しいフィジカルバトルの末に80−89で敗戦。だが、同日に千葉ジェッツも負けたため、広島はワイルドカード上位でのCS進出が決まった。

 今シーズン限りで引退する朝山にとって、9年過ごした広島で現役最後の試合。第1戦は出番がなかったが、ベンチで誰よりもチームを鼓舞し続けた。CS進出が決まった試合後の会見では、「明日がホームで最後なので、いろんな思いをぶつけたい。まずはチーム最優先で、その中で自分のラストとして感謝のプレーを見せたい。最後はみなさんが期待していると思うので、3ポイントを1本ぐらい決めたいなと思います」と笑顔で意気込んでいた。

 第2戦、朝山はスタメンでコートに立ち大声援を受けながら、ホームで約11分間のラストダンス。シュートを打てずに時間が過ぎたが、試合最後のプレーで朝山がパスを受けると、厳しかった琉球の守備もこのときばかりは緩んだ。アリーナ全員の期待を背負い、代名詞の3ポイントシュート。きれいな放物線を描いてゴールに吸い込まれた瞬間、大歓声が弾けた。

 広島でのラストショットを決めて有終の美を飾った朝山は、試合後に行われた引退セレモニーで感謝と誇りを口にした。

「9年間たくさんの思い出が詰まったサンプラザでの試合は今日が最後になります。これまで支えてくださったみなさん、本当にありがとうございました。特に何にも取り柄がなかった自分がこうして20年ものキャリアを続けてこられたことも、数え切れない苦しい思いや、つらいことを乗り越えられたことも、みなさんの出会いやつながりがあったからこそだと思っています」

「自分が何を残せたかわかりませんが、バスケットボールを愛し、このコート上では真っ直ぐ向き合ってきたこと、それだけは胸を張って言えます。僕はこの広島という地で、このチームでユニフォームを脱げることを誇りに感じています。バスケットボールを通して、これだけのたくさんの方々に出会えたことは自分の財産であり、自分の競技人生に何一つ悔いはありません。僕はこの広島ドラゴンフライズが、バスケットボールが、大好きです。これまでどんなときも支えてくださった皆さま、ずっと応援してくださった皆さま、本当にありがとうございました」

◆若手の活躍でCS出場獲得…朝山のラストシーズンは終わらない

 朝山の広島ラストゲームでは、そのプレー姿を見て育った若手が躍動した。2年目でルーキーシーズンの中村拓人は、「小さい頃から見ていた選手なので、キャリアの中で同じコートで一緒にバスケができて本当にうれしいです。最後の場面で3ポイントを決められるのは、見ていて感動しました」と大先輩の勇姿を見届けた。

 そんな中村は第1戦で14得点4スティール、第2戦でキャリアハイの20得点5スティールを記録するなど攻守で大きな存在感を発揮。特に今季培ってきた自信を表すような強気が光った。これまで琉球の岸本隆一など様々な選手を相手に戦い抜いた中村は、「対戦する相手は素晴らしい選手ですけど、決して自分も負けると思っていないし、どんどん挑戦したいと思っているので、強い気持ちを持ってプレーできたと思う」と胸を張った。

 苦しい時間帯で決め切る3ポイントシュートは頼もしさが際立った。第2戦後、「これまで決めないと行けない場面が何個かあって悔しい気持ちがあった。とにかく強い気持ちを持って打つことでリズムができてくると思っていたので、それをシーズン終盤で出せたのはよかったです」と手応えを口にした。

 チームを引っ張ってきた寺嶋良が3月に負傷離脱するアクシデントもあったが、代わって先発で出続けた中村が台頭。朝山が「それぞれが自己犠牲(の精神)を持って全員でいろんな状況を乗り越えられたのが大きかった」と誇らしそうに話したように、チーム一丸でCS進出を勝ち取った。もちろん、朝山の引退もチームに一体感をもたらした要因の一つだ。中村がその思いを口にする。

「少しでも長く朝さんと一緒にバスケットをしたい気持ちがチームの中でも強くあった。『朝さんのために』っていう気持ちがあってチーム力も上がってきたと思う」

 広島はホーム最終戦を朝山の華麗な3ポイントシュートで締めくくった。次はチーム一丸で進んだCSの舞台。朝山のラストシーズンはまだ終わらない。