日々進化するバイクのメカニズム。英文字やカタカナで表記される最新機構も数多く、いったいどんな機構で、バイクに乗る上でドコに役立つのかいまひとつ解らない「コレってナニ?」という装備が盛り沢山。今回はその中から「アダプティブクルーズコントロール」について解説します

クルーズコントロールの進化版

「ACC」と呼ばれる「アダプティブクルーズコントロール」(※アクティブクルーズコントロールが名称のメーカーもあり)は、文言からもイメージできる通り、クルーズコントロールの進化版です。バイクではあまりメジャーではありませんが、クルーズコントロールを装備するクルマ(4輪車)を所有したり、使ったことがある方も多いのではないでしょうか?

アクセルを操作せずに一定速度で巡行できるクルーズコントロール。写真は最新の「アダプティブクルーズコントロール」を装備するカワサキ「Ninja H2 SX SE」
アクセルを操作せずに一定速度で巡行できるクルーズコントロール。写真は最新の「アダプティブクルーズコントロール」を装備するカワサキ「Ninja H2 SX SE」

 ご存知の方も多いと思いますが、クルーズコントロールはアクセルを操作しなくても設定したスピードで一定に走れる快適装備です。クルマでは1950年代に初登場し、1980年台頃にはかなりメジャーになりました。

 ところが、バイクにクルーズコントロールが装備されたのは比較的近年です。その理由は、スロットルを電子制御によってサーボモーターで開閉する「ライド・バイ・ワイヤ(スロットル・バイ・ワイヤ)」を装備していないと、構造的にクルーズコントロール機構を組み込めないからです(古い4輪車のクルーズコントロールは構造が異なります)。

 クルーズコントロールで設定した速度よりも、実際のスピードが上回ると電子制御スロットルが閉じて減速し、下回ると自動的にスロットルを開けて加速する仕組みです。

便利なハズなのに、思ったより使わない?

クルーズコントロールに必須の「ライド・バイ・ワイヤ」のスロットルボディ。電子制御によりサーボモーターでスロットルバルブを開閉する
クルーズコントロールに必須の「ライド・バイ・ワイヤ」のスロットルボディ。電子制御によりサーボモーターでスロットルバルブを開閉する

 アクセル操作不要で巡行できるのはかなり便利で快適……なハズですが、従来型のクルーズコントロールには欠点もあります。たとえば前方の車両に追いついてしまい、ブレーキをかけると機能が解除されるため、再びセット→また追いついて解除……の繰り返しになるコトも。前方が空いていたのに他車に割り込まれてブレーキをかけた時も同様です。

 また高速道路の長い下り坂などは重力で引っ張られるため、自然に加速して設定した速度を上回ってしまうこともあります。これは従来型のクルーズコントロールは、あくまでスロットルの開け締めでスピードを調整しており、ブレーキは連動していないためです。

 そのため相応に混んだ道では(従来型の)クルーズコントロールを使うとかえって面倒というケースもあり、夜間などの空いた高速道路以外では使えない……と感じた人もいるのではないでしょうか。

 そんな不満を解消し、安全性も向上させたのが現在のアダプティブクルーズコントロールなのです。

レーダーで車間を計測し、ブレーキで減速!

 アダプティブクルーズコントロールは「ミリ波レーダー」で前走車との車間距離を計測するのが最大の特徴です。ちなみに「ミリ波」とは、非常に高い周波数(30〜300GHz)の電波のことで、波長が1〜10mmなので「ミリ波」と呼ばれています(テレビのUHF放送が300〜3000Hzで、波長は100mm〜1mで「極超短波」と呼ぶ)。

ヤマハ「TRACER9 GT+」のフロントカバー、フロントサイドパネルを取り外した状態。左右モノフォーカス2眼LEDヘッドランプの中間にある四角いパーツが、車両前方に搭載されたミリ波レーダーのアンテナ
ヤマハ「TRACER9 GT+」のフロントカバー、フロントサイドパネルを取り外した状態。左右モノフォーカス2眼LEDヘッドランプの中間にある四角いパーツが、車両前方に搭載されたミリ波レーダーのアンテナ

 アンテナからミリ波を送信し、前走車に当たって跳ね返ってきた電波を受信することで、前走車との車間距離や位置を非常に正確に掴みます。

 そして設定した車間距離よりも近づくと電子制御スロットルを閉じて減速し、それでも減速が足りずに近づく場合はブレーキもかけて減速し、車間を開けます。そのためには電子制御のABS(アンチロックブレーキシステム)と連動する必要があります。

 とはいえ、突然ガツンと強くブレーキが効いたら危険です。そこで、減速のためのブレーキは緻密にコントロールされています。

 また道路が曲がっていれば(高速道路の緩やかなカーブなど)、車体は少なからずバンクしているし、直線でも車線変更する際は車体を傾けます。

ヤマハ「TRACER9 GT+」は、前方への急な車両の割込みや前走車の急ブレーキなどで、ACCシステムでの減速ではカバーしきれないと判断すると、ライダーへ操作を促すためメーターパネルに「機能限界表示」で警告する機能も備わる(写真はACCと連携したブレーキシステムの体験試乗の模様)
ヤマハ「TRACER9 GT+」は、前方への急な車両の割込みや前走車の急ブレーキなどで、ACCシステムでの減速ではカバーしきれないと判断すると、ライダーへ操作を促すためメーターパネルに「機能限界表示」で警告する機能も備わる(写真はACCと連携したブレーキシステムの体験試乗の模様)

 そんな時でもライダーに不安を与えないように、IMU(慣性計測装置)で車体の姿勢を計測しながら、自動的にスロットルの開け閉めやブレーキをかけて、安全に加速・減速を行なって前走車との車間距離を一定に保ちます。もちろん目前に他の車両が割り込んできた時にも機能します。

 ライド・バイ・ワイヤに加え、ミリ波レーダーはもちろん、最新の電子制御ABSやIMUなども装備していないと、アダプティブクルーズコントロールの搭載は不可能なのです。

 そのため、現時点では大排気量のスポーツツアラーやアドベンチャーなど、高額なバイクしか装備されていません。

 とはいえクルマでは軽自動車にも装備車が増加しているので、今後は快適性と同時に安全性を高めるためにも、より多くのバイクに普及するかもしれません。