MotoGP第2戦ポルトガルGPで行なわれたMotoEメディアイベントで、ミシュランが2024年シーズンの『FIM Enel MotoE World Championship』に供給するタイヤを発表しました。当日、ミシュランの2輪モータースポーツマネージャー、ピエロ・タラマッソさんに聞いた、2023年から2024年にかけてのMotoEタイヤの変更とあわせてお届けします。

この独特なデザインの意味は?

 電動バイクレース『FIM Enel MotoE World Championship』(以下、MotoE)のワンメイクタイヤサプライヤーは、初年度2019年からミシュランが担っています。初年度からサスティナブル素材を使用したタイヤをMotoEに供給しており、年々そのパーセンテージを増やしてきました。

2024年MotoEタイヤ(リア)は、ブロックタイヤのような独特の模様を持つ
2024年MotoEタイヤ(リア)は、ブロックタイヤのような独特の模様を持つ

 MotoGP第2戦ポルトガルGPの木曜日に発表された、2024年シーズンのMotoEタイヤに使用されるサスティナブル素材のパーセンテージは、フロントタイヤが49%、リアタイヤが53%です。2023年はそれぞれ34%と52%だったので、とくにフロントタイヤにおいて、サスティナブル素材のパーセンテージが増加しています。

 ミシュランの説明によれば、サスティナブル素材として使用されるのは、使用済みタイヤ、天然ゴム、レモンやオレンジなど柑橘類の皮、松材、レジン、ひまわり油、鉄くずなどです。

 2024年は前後タイヤの平均サスティナブル素材パーセンテージが50%を超え、51%となりました。2021年、ミシュランは2050年までに100%持続可能なタイヤを目指すことを発表しています。MotoEはその先進的なタイヤの開発の場にもなっているというわけです。

MotoGP第2戦ポルトガルGPの木曜日に行なわれたミシュランのMotoEメディアイベントで、2024年MotoEタイヤについて語るピエロ・タラマッソさん
MotoGP第2戦ポルトガルGPの木曜日に行なわれたミシュランのMotoEメディアイベントで、2024年MotoEタイヤについて語るピエロ・タラマッソさん

 2023年シーズンは、ワンメイクマシンがドゥカティの「V21L」に変更となったシーズンでした。2023年から2024年にかけて、ライダーからどのような要望があったのでしょうか。メディアイベントでの発表後、ミシュランの2輪モータースポーツマネージャー、ピエロ・タラマッソさんに話を聞くことができました。

「昨年、ライダーたちはリアタイヤのグリップと安定性について満足していました」と、タラマッソさんは答えます。2024年に向けた改善の焦点は、主に、フロントタイヤに置かれたということです。

「リクエストはフロントタイヤについてで、フィーリングを改善することでした。昨年はドゥカティマシンでの1年目のシーズンでしたからね。2023年のコメントを受けて、2024年のタイヤにはもう少し改良を加えました。ブレーキング時、コーナー進入時にフロントの安定性が増し、フィーリングも良くなっています。リアタイヤについては、昨年のものに近いです」

 つまり、マシンがドゥカティの電動レーサー「V21L」になったことで、ブレーキングがより激しいものになった、ということなのです。2023年は、全8戦のオールタイムラップ・レコード、また、最高速が更新されました。最高速としては、イタリア大会(ムジェロ・サーキット)で281.9km/hが記録されています。

2024年MotoEタイヤとミシュランが目指す2050年の「VISIONコンセプト」
2024年MotoEタイヤとミシュランが目指す2050年の「VISIONコンセプト」

「3秒も(ラップタイムが)速くなったんですよ。フロントタイヤに負荷をかけ、ブレーキングは深く素早くなりました。だから、今季に向けて性能を少し合わせる必要があったのです」

 そう語るタラマッソさんに、発表されたばかりの2024年MotoEタイヤについて水を向けます。そのリアタイヤは、独特のデザインを持っていました。まるでブロックタイヤのようですが、実際に触ってみると、ほとんど凹凸はありません。このデザインには、一体どのような意味があるのでしょう?

「デザインは表面的なものです」と、タラマッソさんは説明します。

「表面だけのものなので、1〜2周すれば消えてしまいます。パフォーマンスには何も影響はありませんよ。ただの視覚的なものなんです。あのビジュアルは『VISIONコンセプト』にインスパイアされたものだからです。『VISIONコンセプト』は、2050年のミシュランタイヤです」

「VISIONコンセプト」とは、2017年にミシュランが発表したコンセプトタイヤで、100%のサスティナブル素材使用が、そのコンセプトに含まれています。その外観は非常に先進的です。

走行すれば消えるものだというリアタイヤのデザインだが、「サスティナブル素材を使ったタイヤ」と示すのに十分な印象を与える
走行すれば消えるものだというリアタイヤのデザインだが、「サスティナブル素材を使ったタイヤ」と示すのに十分な印象を与える

「私たちは人々がこのタイヤを見たときに『どうしてこのデザインにしたの?』と思ってもらいたいのです。目に見えないものを、見えるようにしたいのですよ。なにしろ、サスティナブル素材を使っていることは目に見えないでしょう。興味を持ってもらいたいですし、これがサスティナブル素材を使ったタイヤだと説明したいから、このデザインを作ったのです」

 なるほど、確かに通常のスリックタイヤでは、それにサスティナブル素材が使われているのかわからないでしょう。例えば、2023年もサスティナブル素材のタイヤが供給されていましたが、外観はMotoGPに供給されるスリックタイヤと変わりませんでした。

 リアタイヤのデザインは、ミシュランのテクノロジーと2050年に向けた取り組みを表すものですが、同時にMotoEがサスティナブル素材のタイヤを使って行なわれるレースであることをも示している、とも言えます。新しいモノによるレースだけに、こうしたアピールもまた、必要であり重要でしょう。

 ちなみに、走行後にタイヤを確認すると、タラマッソさんの言う通り、摩耗したタイヤから網状のデザインはすっかり消えていました。

 MotoEではシーズンを通してひとつのコンパウンドが供給されるため、このタイヤで全8戦、ポルトガル大会を終えて残り7戦が行なわれることになります。