埼玉県の自動車教習所を会場にした『まるごとバイクフェスティバル』が、初開催から20年目を迎えました。この祭典の主催は自動車指定教習所。そこに地元バイクショップが試乗車を持ち寄り、年々拡大。今では1日で約600人が試乗できる規模まで拡大しました。しかも、試乗の中には無免許の人を対象としたプレライダースクールのプログラムも。なんと14歳から参加できるのです。

家族で楽しめる完全参加型のバイクイベント 1日で来場者1000人

 2024年4月29日、埼玉県上尾市の自動車指定教習所を会場に完全参加型のバイクイベント『まるごとバイクフェスティバル』が開催されました。教習所を会場にしたバイクイベントは全国で増えていますが、これは足掛け20年続く“老舗”イベントです。コロナ禍の2年間は中止を余儀なくされたものの、2024年で18回目を迎え、地道に続けたことが評判を呼び、来場者は主催者の「ファインモータースクール上尾」発表では1000人です。家族連れの姿も目立ちました。

1日で550人の試乗が可能に
1日で550人の試乗が可能に

 このイベントのメインは、過去最多32車種33台の新型モデルが揃った試乗会です。自動車教習では教習車の発着エリアとなる車寄せに、数台のバイクを横付けし、1グループが縦列になって出発します。4グループほどが時間差で出発し、常に試乗車が走っている状態を、ほぼ1日続けて約550人ほどの試乗を可能にしています。

 試乗車は、埼玉県内で営業するバイクショップが持ち込んだ車両で、ショップが所有するものです。試走ではレースのメカニックさながら、ショップのスタッフがライダーに寄り添い、初めてのバイクで戸惑う人には操作方法のアシストをしています。サイドスタンドの位置が探せない人には、スタッフが代わりにスタンドを払う気遣いを見せます。ファインモータースクールでいつもは教習指導員をしている運転のプロがグループを先導します。

 ファインモータースクール上尾が開校したのは1962年。少子高齢化の中で教習所の認知度を上げるためにイベントを開催したのは2005年でした。

 当初から協力を惜しまなかったのが、さいたま市で2店舗を展開するバイクショップ「サイクルロードイトー」(伊藤学社長)でした。教習所と地元のバイクショップがタッグを組んで長年続けることで、今では33の団体が参加するまでに拡大しています。バイクを活用する埼玉県警、陸上自衛隊第32普通科連隊、首都高速道路東京東局も協力しています。

 出展する「スペシャルパーツ忠男」の大泉善稔常務は、このイベントの成長を共に支えたひとりです。

「今日のイベントは9時30分開場で、1時間前の8時30分からスタッフミーティングをやるはずだったのですが、その時にはもうお客さんが集まっていたので、すぐ開けようって前倒しで開場したんですよ。(通常のイベントではそういうことはしないが)お客さんが楽しめることを第一に考える精神が、このイベントには貫かれています」

 バイクショップで組織する埼玉オートバイ事業協同組合の代表理事の岡田隆幸さんは、「(入場者の)数は追うな。お客さんが楽しんでくれたら、人は自然に増える」が口癖です。

 来場者はライダーだけでなく、家族連れ、親子の姿も目立ちました。まだ小さな子どもの世話をお父さんに任せて、お母さんが試乗する姿もありました。人気のユーチューバーやタレントはいませんでしたが、バイク好きがバイクを使ってイベントの名前どおり「まるごとバイク」を楽しもうという雰囲気が伝わってくるようです。

14歳から参加できる“免許なし”プレライダースクール

 自動車教習所を会場にした「まるごとバイクフェスティバル」のもうひとつの特徴は、二輪免許のない人を対象にした試乗「プレライダースクール」です。

14歳でプレライダースクールに参加した中学生。約1時間で外周走行とS字コースを運転できた
14歳でプレライダースクールに参加した中学生。約1時間で外周走行とS字コースを運転できた

 参加条件は14歳以上なら誰でも可能。二輪普通免許の取得で使う教習車両、ホンダ「CB400スーパーフォア」に試乗します。2023年までは「レディース&ビギナーズスクール」という名称でしたが、10〜20代の若い層の免許取得層を厚くしたいと、“攻めた”企画に練り直しました。

 小学生低学年までを対象にしたキッズバイクも同時開催していますが、免許取得年齢に満たない中学生でも体験できるというのは、プレライダーと呼ぶにふさわしい取り組みです。

 参加者の1人、14歳の中学生はお父さんに連れられてやってきました。バイクの運転経験はありません。それでも指導員とマンツーマン、約1時間で驚くことに乗れてしまいました。教習のような前置きはなく、開始から5分でサイドスタンドを払って、車体をまっすぐに保ち、エンジンのオンオフまでを体験。すぐに乗り出して、足を地面につけながら、ゆっくりスロットルを開けて進む練習に入ります。

「怖くなったらクラッチを握って」という指導員の声。バイクに乗って先導するほかに、乗らずにサポートする指導員も小走りでサポートします。

 取材した中学生は、体格が車体に追いつきませんでしたが、こうしたケースは予想されていて、ファインモータースクールは排気量125ccクラスの「GROM(グロム)」を用意していました。地元の埼玉自動車大学校の協力で借り受けた車両でした。

 小さいバイクでクラッチとスロットルを使うコツをつかみ、教習所の小さな外周コースだけでなく、その中のS字コースも体験することができたのです。

 また、別の20代の男性は、バイク免許を持つ彼女に薦められて挑戦。途中、失速して車体を倒すこともありましたが、教習車両に取り付けられた前後のバンパーで、何事もなくスクールを楽しんでいました。

 ファインモータースクールの広報担当・斎藤千絵マネージャーは、こう話します。

「指定教習所は免許のない人に教える場所です。転倒しても安全な装備と国家資格を持った指導員が付き添います。基本的に教習車両を使うので、転んだり、それでミラーが割れたりするのは想定済み。免許を持つことで広がる新しい世界を体験してもらって、取得年齢になったら申し込んでもらえることを願っています」

 バイクイベントの楽しさを、運転を教えるプロフェッショナルのプライドが支えていました。

 さらに、このバイクイベントは午前と午後の試乗会に挟む昼休憩でも飽きさせません。トライアル競技国際A級クラスの本田元治選手と武井誠也選手が、来場者の目の前30センチで運転テクニックを披露し、スロットルを開けることより運転技術を向上させることの大切さを説きます。ファインモータースクールは本田選手と武井選手の公式スポンサーであり、武井選手は同教習所の指導員として活躍しています。

 免許取得人口が減少する中で、バイク免許取得者を増やそうとする指定教習所の意気込みが伝わってくるバイクイベントでもありました。