資産が35億円もありながら「無職」として家賃50万円未満のマンションに入居申請をしたところ、審査で落ちてしまったという人の体験談がSNS上で話題になった。一般にあまり知られていない入居審査の仕組みについて、不動産業界のプロに解説してもらった。

 話題になったのは、一介のサラリーマンからインデックス投資とスタートアップ企業への出資を成功させてFIRE(経済的自立と早期リタイア)を実現し、現在は「資産35億円ニート」を自称しているマサニー氏が9月にX(旧Twitter)で報告した体験談。マサニー氏は家賃50万円未満のマンションに入居を希望し、職業を「無職」とした上で昨年の年収として「20億円」と申告し、収入を証明するものとして約9273万円という金額が記載された住民税通知書を提出したという。

 昨年の収入から考えると余裕で入居できそうだが、担当者から「今回の物件は無職であると審査の受付ができないとのことです」と断られてしまったそうだ。ちなみに、マサニー氏は「三井住友カードプラチナプリファード」の入会審査にも落ちたことを明かしている。

 これに対して、ネット上では以下のような驚きの声が上がった。

「資産が35億円あっても無職だと審査のスタートにすら立てないのか」

「FIREしたらしたで、別の悩みができるんだなあ」

「めっちゃ稼いでるYouTuberとかも審査落ちるっていうし、資産とか収入とは別の問題があるのかも」

「入居審査ってブラックボックスっぽくて基準がよく分からない」

イメージ的にはお金を借りる時のローン審査に近い

 実際、一般的に入居審査ではどのような点がチェックの対象となっているのか。不動産コンサルティングを手がける長谷川不動産経済社代表の長谷川高氏はこう解説する。

「現在、賃貸物件に入居する時は連帯保証人を立てずに賃貸保証会社をつけるケースが主流になっており、入居審査は管理会社よりも保証会社による審査がメインになっています。やはり、審査で一番重視されるのは収入です。次に重視されるのがどの会社で働いているかです。収入があるかについては、自己申告だけでなく、会社員であれば源泉徴収票など、個人事業主であれば確定申告書の写しなどで確認します。個人事業主や中小の会社経営者の場合は単なる収入だけでなく、事業自体が黒字なのか赤字なのかといった部分も過去にさかのぼって審査されます。単年度の業績でなく継続的に経営は安定しているのかを判断されます。

 また、過大な借り入れがないかといった点も審査対象になり、例えば消費者金融などから大きな借金をしていたり、または、収入に対して過大な高級外車をオートローンで買っていたりといったことがあれば、審査に影響することになります。また、携帯電話の料金を何カ月も滞納していないか、借入金の返済が滞っていないかといった点も審査の対象になります。イメージ的にはお金を借りる時のローン審査に近く、かなり広範囲に調べられることがあります」(長谷川氏)

 やはり、無職だと審査を通るのは難しくなるのだろうか。

「無職だからといって必ずしも審査に通らないというわけではなく、働いていなくて収入がないという意味では学生も同じですが、経済的に安定した保護者が連帯保証人になるなどすれば、当然ながら賃貸物件を借りることはできます。同じく、年金生活者の多くも年金の額に対して適正な範囲内の家賃の物件であれば(年齢の問題で大家さんが否とするケースもありますが)無職でもあっても入居審査が通らないとは言えません。一方、保証会社の審査と言っても、その基準、つまりハードルは各々の保証会社によって異なります。高額な家賃の物件の場合は、貸主がより審査の厳しい保証会社を選定しているケースが多いようです。よって家賃が一定以上の物件は審査基準がより厳格になる可能性があります」(同)

(文=佐藤勇馬、協力=長谷川高/長谷川不動産経済社代表)