星間空間を旅するボイジャー1号の想像図。2012年に太陽圏を飛び出し、星間空間に到達しました。(NASA/JPL-Caltech) / Via nasa.gov

地球から最も離れた場所にいる宇宙探査機「 ボイジャー1号 」から、意味不明なデータが延々と送られてきていることが判明しました。
ボイジャー1号は1977年に地球を出発。木星と土星の探査という当初の目的を達成した後も、同時期に打ち上げられた姉妹機のボイジャー2号ともども46年間に渡って宇宙を旅しています。
2012年には太陽圏(太陽風が届く領域)を飛び出し、人類史上初めて星間空間に到達しました。
2023年12月現在、地球から240億km以上も離れた星間空間を旅している大ベテランの宇宙探査機の身に何が起きたのでしょうか?

【動画】木星と土星を通過、そして星間空間へ。前人未踏の旅を続けるボイジャー1号の軌跡

ボイジャー1号が意味不明なデータを送ってきた理由

ボイジャー1号を運用するアメリカ航空宇宙局(NASA)の 12月12日の発表 によると、同機に搭載された「テレメトリー変調ユニット(TMU)」と呼ばれる装置から0と1を繰り返すだけのデータが延々と送られてくるようになったそうです。
NASAのボイジャー運用チームは、その原因についてさまざまな可能性を検討した結果、ボイジャー1号に搭載された3つのコンピュータのうちの1つ「フライト・データ・システム(FDS)」に問題が生じているという結論に至りました。
FDSは観測結果や機体の状態に関するデータを収集し、0と1の信号に変えてTMUに渡す役割をしています。このFDSからTMUへの連絡が上手くいっていないと見られます。
そこで、ボイジャー運用チームは、12月上旬からFDSを再起動して問題が発生する前の状態に戻そうとしました。しかし、この試みは上手くいかず、ボイジャー1号は有用なデータを送ってこないそうです。

ボイジャー1号の打ち上げの模様。米国フロリダ州ケープカナベラルから1977年9月に打ち上げられました。(NASA) / Via nasa.gov

新しい解決策を練るのに数週間かかる見込み

ボイジャー運用チームが次の新しい解決策を練るためには数週間かかる見込みだそうです。
ボイジャー1号が直面している難問を解決するためには、1970年代の打ち上げ当時のエンジニア達が作成した資料を参照する必要があります。予想外の結果になることを避けるために、新しい命令がボイジャー1号のオペレーションにどのような影響を与えるかを時間をかけて理解しなければなりません。
これに加えてボイジャー1号は地球から240億km以上も離れています。そのため地球か命令を送って、ボイジャー1号の反応が返ってくるのに往復45時間もかかってしまいます。
それでもボイジャー運用チームは問題の解決に向けて鋭意取り組んでいます。

ボイジャー1号が撮影した木星とそ衛星の写真(Getty Images)

2022年にも問題が発生

ボイジャー1号は2022年にも問題が起きていました。
2022年に入るとまもなく、ボイジャー1号のアティテュード・アーティキュレーション・アンド・コントロール・システム(AACS)と呼ばれる装置から誤った情報が送られてくるようになりました。AACSはボイジャー1号のアンテナを地球に正確に向け続けるための装置です。
このときはAACSから 数年前に機能を停止したコンピューターにデータが送られていたことが原因でした。そこでAACSに正しく機能しているコンピューターにデータを送るように命令したところ問題が解決したと同年8月に 発表されました 。

ボイジャー1号が撮影した土星の画像(Getty Images)

2030年ごろには電池が尽きるボイジャー1号。その後の航海はどうなる?

ボイジャー(voyager)は英語で「航海する人」を意味します。ボイジャー1号の宇宙の航海はまだまだ続き、4万年後にはきりん座の恒星グリーゼ445から1.7光年以内のところを通過すると 見られています 。

ただ、その声を私達が聞くことができる期間は長くてあと数年です。ボイジャーはプルトニウムなどの放射性元素が放射する放射線をエネルギー源にして発電する「原子力電池」を搭載しています。
科学誌『 サイエンティフィック・アメリカン 』によると、NASAは2020年ごろから、機体のヒーターや一部の装置を停止させて電力を節約していますが、それでも2030年ごろには原子力電池の寿命が尽きると予想されているそうです。
それでも夢のある話は残されています。ボイジャーには「 ゴールデン・レコード 」と呼ばれる金メッキのディスクが積まれているからです。

これは天文学者のカール・セーガンさんが企画したもので、地球外生命体がボイジャーを発見したときに備えて「今日は、お元気ですか?」と言う日本語を含む51の言語でのあいさつなど地球の文明の痕跡が記録されています。
いつの日か、ボイジャー1号を見つけた宇宙人を見つけて、はるか離れた地球とその文明に思いを馳せてくれることがあるかもしれませんね。

ボイジャーに積まれたゴールデンディスクとジャケット(左)。レコードに地球の音や画像が記録されている。 NASA/JPL-Caltech / Via science.nasa.gov