食える漫画家はひと握り。だからこそ夢がある。「そんな現実はいらない」と、浜田ブリトニーさんは、漫画家としての技術をどうお金に変えるか模索します。行き着いたのは、漫画家と彼らのスキルを望む人の「マッチング」でした。思わず納得してしまう浜田ブリトニーさんの一手とは?(全5回中の5回)

「漫画家の価値と収入をあげたい」すべてはそこから

── 現在は実業家としてカフェバーの経営や、漫画のプロダクションも行っているそうですね。漫画のプロダクションとは具体的にどんなことをしているのでしょうか?

浜田さん:漫画家というと、コミック雑誌に漫画を描くのが一般的なイメージだと思います。大手の出版社でも、漫画家に支払われる原稿料って意外に安いんです。

というのも、大手出版社は漫画を単行本として出版することを前提としているから。雑誌掲載の原稿料はあまり重視していなくて、「漫画家さんは、単行本の印税で稼いでください」というスタンスなんです。

人気作を次々と生み出す一部の漫画家は、単行本がめちゃくちゃ売れて、印税もたくさん入ります。いっぽうで、連載しても短期で終了し、1、2巻しか単行本が出せなかったり、人気作品を生み出しても、その後ヒット作に恵まれなかったりする場合もあります。

すると漫画家の収入は安定しないんです。こうした人たちに向けて、私が紹介しているのが「企業案件」です。

── 「企業案件」とはどんなものですか?

浜田さん:出版社以外の企業から声がかかる、PR用の漫画やイラストの依頼です。「漫画家さんに商品のポスターを描いてほしい」とか「パッケージのデザインをしてほしい」みたいなものですね。こういうお仕事は、出版社で漫画を描くよりもギャラが高い傾向があります。

たとえば企業から「少年漫画のテイストでポスターを描いてほしい」という依頼があったら、その希望に合いそうな漫画家を紹介しています。

── 企業側と漫画家をマッチングするんですね。こうした仕事を手がけるようになったのはどんなきっかけでしょうか?

浜田さん:もともとは私に対して、企業から仕事の依頼がけっこうあったんです。タレント活動をしたおかげで、「浜田ブリトニー」を知ってくれている人がわりと多くて。でも、依頼の中には私には描けない作風もあり、他の漫画家を紹介したのがきっかけです。

出版社のパーティーや、漫画家同士の集まりで仲良くなった人へ個人的に声をかけていました。現在は会社を立ち上げたので、こうした仲介業を事業の一環として行っています。

もともと、「漫画家さんに仕事を頼みたい」と考えている企業はかなり多かった印象です。漫画家自身も、いろんな仕事をしたいと考えている方が多かったんだと思います。

ただ、これまではそこをうまくつなげる人がいなくて、窓口もない状態で、うまく需要と供給がマッチしなかったんですね。

交渉下手やアピール下手な漫画家はたくさんいる

── 浜田さんのように間に入ってくれる人がいるのは心強いですね。

浜田さん:漫画家って、すごく才能があっても、ギャラの相場を知らなかったり、交渉が苦手だったりする人が多いです。SNSで仕事の依頼をされて、とんでもなく安い料金や短い納期で仕事を受けてしまう場合も少なくありません。

私の強みは漫画家以外の仕事もいろいろ経験し、ギャラの相場がわかっているところだと思っています。企業と漫画家の間に第三者として私が入り、契約書を交わし、適切な仕事を割り振っているんです。こうした役割は重要だと思います。

漫画について詳しい弁護士の先生が顧問としてついてくれているので、何か問題があったときも相談にのっています。

浜田ブリトニーさんが経営するオカオカカフェ

── 浜田さんの活動に対し、企業や漫画家さんはどんな反応ですか?

浜田さん:企業の方も漫画家も、すごく喜んでくれます。

あと、私はトークイベントなどに呼ばれることもあるんです。そのときに企業さんへ「トークだけじゃなくて他の先生のコーナーも出しませんか?」と提案し、漫画家を呼んで似顔絵ブースや漫画講座を開くなどをしています。

最近は企業さんも「予算がこれくらいのイベントを企画しています。漫画家を何人か連れて来てもらえますか?」みたいに相談してくれるようになりました。

あとは、「漫画ギャラリーCAFEオカオカ」でもイベントを開いています。期間ごとに漫画家の作品を展示させてもらったり、トークイベントや漫画講座を開催したりしているんです。

人気漫画家にも来てもらい「ここに来たら人気の先生にも会える」とギャラリーの価値も高めています。人気漫画家にもメリットがあるよう、ギャランティの交渉するなどしています。漫画家に会える場として、世界中からファンの方が来てくださっています。

AIによるコミックが誕生?漫画家も変革のとき

── 現在は出版不況といわれていますが、漫画家を取り巻く状況は変わってきていますか?

浜田さん:やっぱり変わってきています。以前は雑誌で描いて単行本を出すというのが、収入を得る王道の方法でした。でも、いまはwebや同人誌など、さまざまな媒体が増えています。自分に合った媒体を見つけるのが大切だと感じています。

── たしかにお話を聞いていると、漫画家も昔ながらの方法にこだわっていると取り残されてしまうのかもしれないと感じます。

浜田さん:私は大学や専門学校などで漫画の講師の仕事もしていますが、生徒さんのやりたいことも年々変わってきていると感じます。なにしろ今後は、AIが漫画を描く時代になるとさえ言われていますから。時代の変化に合わせ、漫画の描き方や発表のしかたも変わっていくと思います。

でも、私は漫画が大好きだから、どんな時代に変わっても漫画家には存分に才能を生かしてもらいたいんです。だから、少しでも活躍の場を広げるお手伝いができたらいいなと、日々模索しています。

PROFILE 浜田ブリトニーさん

はまだぶりとにー。漫画家・タレント・実業家。千葉県出身。週刊漫画雑誌『ビッグコミックスピリッツ』にて、渋谷ギャルのリアルな実態を描いた『パギャル!』を連載し、ホームレスギャル漫画家としてバラエティ番組に多数出演。2012年2月、株式会社PIECE EIGHTを設立し社長業もこなす。2児の母。

取材・文/齋田多恵 写真提供/浜田ブリトニー