2010年に突発性難聴を発症した藤あや子さん。一時は引退の2文字が頭を過ったと話します。発症当時や治療中に抱えていた思いを聞きました。(全5回中の5回)

約10日間、一日16時間の点滴の日々

── 藤さんは2010年に突発性難聴を発症し一時休業をされていました。当時、どのような症状がありましたか?

藤さん:発症した時の症状は人によって違うようですが、私は突然、片耳だけ音が大きく聞こえるようになりました。ちょうど仕事で山梨県にいた時だったのですが、シャワーを浴びていたら、耳を塞ぎたくなるぐらい水の音がものすごく響いてきて、聞こえすぎてしまったんです。これはなんかおかしいと思い、主治医の先生にすぐ電話をしました。

そしたら先生が危機迫る声で「今すぐ病院へ行ってください!どこでもいいから今すぐ点滴を打ってもらって!」と。その声にまず驚いてしまって…。

「どこの病院でもいい」と言われても自分でこれを説明できる自信もなかったし、怖かったので「今すぐ東京に戻ります!」と急いで戻って先生の所へ行き、着いたら即入院、即点滴治療を開始。発症してからなるべく早めに治療を開始しないと元に戻る可能性が下がるそうで、違和感を覚え始めてからの時間を考えると本当にギリギリの状況でした。その後は10日間ぐらい入院し、一日16時間以上の点滴を。その後も通院は続きました。

── 歌手にとって耳は本当に大切かと思います。突発性難聴と診断された時は本当につらかったのでは…。

藤さん:もう終わったと思いました。歌手としての人生は終わったと。考える間もなくすぐに休養宣言を出していただきました。

詳しい検査をした結果、先生から通常の耳の活動の数%程度しか動いていないこと、これを本来の状態に戻すのは時間がかかる、何年かかっても戻らない可能性もあることを告げられました。

しかもその時、突発性難聴との因果関係は不明ですが、顔面の右側に麻痺も起きてしまい、まったく動かなくなっていたんです。口が閉じられないのでご飯も上手に食べられず、瞼も閉まらないのでシャワーを浴びる時は水が全部目に入ってしまうので、わざわざ指で瞼を無理矢理閉じさせなければいけなかったほど。

── ひとつの時期に他のことまで重なってしまったんですね。

藤さん:健康にはかなり気をつかっていましたので、名のつく病気にはなったことがありませんでしたから、私の何がいけなかったのだろうと落ち込みました。

あの当時はたとえば街で可愛いお洋服が展示されているのを見ても、「カワイイな」「欲しいな」なんて気持ちはまったく起こりませんでした。健康な人であれば、「あれ着てどっかお出かけに行きたい」と思うところを、「私、どうせそんな着ていく場所がないからな」と、すごいマイナスに考えるんですよね。どこにももう行きたくないって。

そんな経験は初めてで、病気をもつ人の気持ちになった分、気づいたことってすごくあります。 私は元々すごく前向きな人間なので、落ち込むという経験があまりありませんでしたが、この時ばかりは、違いました。一生ステージに立てなくなるかもしれないと思ってましたので。