東京都豊島区をホームタウンとする「エリース東京FC」(関東1部リーグ)が、日本フットボールリーグ(JFL)初昇格を懸けたシーズンに挑む。中学生から70歳代まで合計300人が在籍する「全世代サッカークラブ」はトップチームを株式会社化し、最短でのJリーグ参入を標ぼう。サッカーと街づくりを掛け合わせ、大資本や親会社を持たない新たな大都市型市民クラブの未来を描いている。(取材・構成=松岡祐司)

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 エリース東京FCは立教高サッカー部OBを中心に1970年に創設。J1東京Vの城福浩監督(63)らが所属したこともある東京最強の名門アマチュアクラブとして知られる。下は中学年代から、上は「死ぬまでサッカーができる」を合言葉に70歳代まで幅広い年齢層がプレーを楽しみ、のべ1万人超という異色のクラブコミュニティーを誇る。

 創立50周年を迎えた2020年にトップチームを株式会社化。コンサルティング会社「FIELD MANAGEMENT STRATEGY」の中村健太郎代表を最高経営責任者に招き、Jリーグ参入を視野に入れた活動やパートナーシップ企業の受け入れなど新規事業をスタート。地元に根差そうと、巣鴨地蔵通など商店街を丹念に回ってチラシを配ったり、地域のイベントに積極的に参加したりしている。選手たちが小学校や児童クラブに出向き、子供たちにサッカーを教える機会も増えてきた。

 また、池袋エリアの企業や団体、学校、行政が連携・協働する街づくりプロジェクト「チームとしま」に参画し、新たな地域貢献の形を模索。パートナーシップを結んでいる吉本興業とは、サッカーとお笑いを組み合わせた共同イベントの開催を準備しているという。クラブスタッフの樫原美沙さんは「単なるサッカーチームではなく、区民の皆さまや在区企業、エリースファミリーと一緒になって豊島区を盛り上げていきたい。そのためには、地道な活動が大事だなと思っている」と語る。

 ピッチ上の強化も急速に進められてきた。東大ア式蹴球部で指導経験のある山口遼監督が指揮を執り、23年には関東2部リーグで優勝。ショートパスを駆使したビルドアップを武器に、圧倒的なボール支配率でゴールを奪う攻撃的なスタイルを構築して、2位に勝ち点9差という独走劇を演じた。

 Jリーグの岩手に3年間在籍した色摩(しかま)雄貴さん(26)はJ2とJ3で計58試合に出場した実力者。昨年2月、「右も左も分からなかった」という戦略コンサルティングファームでビジネスをゼロから学びながら6部相当の関東2部からJリーグ参入を目指すという”いばらの道”を選択した。平日は午前7時から練習で汗を流し、選手たちはそれぞれ会社へ出社する。色摩さんは「Jリーグでプレーしていた時より自分自身の成長を感じて、生活が充実している」と言い、「与えられた仕事をしっかりやることで、サッカーにも逆に集中できている」と笑みを浮かべる。

 新シーズンは4月6日に開幕する。7年ぶりの関東1部リーグへ挑戦者の立場ではなく、クラブ内では「王者の風格を出して、圧倒的な1位を取ろう」とメッセージが打ち出されているといい、色摩さんは「目標はJFL昇格」と言い切る。

 1993年のJリーグ発足以降、41都道府県に60のプロクラブが誕生したが、東京23区はJクラブの「空白地帯」。エリース東京の挑戦が、始まる。 (写真はクラブ提供)

 ◆エリース東京FC 立教高サッカー部OBが中心となり1970年に創設。トップチームを含む社会人6チームとジュニアユースの計7チームが活動。トップチームは21年に5度目の東京都1部優勝、23年関東2部優勝。創設50周年の2020年にトップチームを株式会社化。前岩手のMF色摩雄貴、元水戸のMF村田翔、元名古屋のFW松岡ジョナタンらが在籍する。山口遼監督。