◇29日 サッカー パリ五輪アジア最終予選兼U―23アジア杯準決勝 日本2―0イラク(ドーハ)

 日本がイラクに完勝し、8大会連続の五輪出場を決めた。その原動力となったのが万能アンカー・藤田だ。アンカーとはセンターバック2人の前で中盤の守備をつかさどる守備的ミッドフィールダーだ。A代表では、デュエル王・遠藤が世界的にもトップレベルの守備的MFとして評価されている。

 藤田も遠藤ほどではないが守備力は高い。加えて攻撃力に関しては遠藤を上回る。この日も守備だけでなく、攻撃に関しても”司令塔”としてタクトを振るい続けた。前半10分、DFからのパスを受けた藤田は素早く前を向くと荒木に縦パス。さらに荒木は動き出した細谷に縦パスを入れ、決定的なチャンスを作った。

 同19分には藤田の縦パスを相手がクリアしきれず、こぼれ球を拾った荒木がシュート。そして同28分、待望の先制ゴールが生まれる。細谷の動き出しを見極め、ハーフウエーライン手前から藤田が絶妙の縦パス。これを細谷が振り向きざまに流し込んだ。

 さらに同42分、大畑のクロスをゴール前に攻め上がった藤田が動き出した荒木にダイレクトで縦パス。荒木がきっちりとゴールに流し込み、追加点を奪った。

 延長戦にもつれ込んだ準々決勝のカタール戦でも藤田―荒木―細谷のホットラインで決勝ゴールを奪った。守備的MFでありながら、重要なこの2試合、それも5―4―1のブロックで守りを固めてきたカタール、イラクの守備網を切り裂いたのが、藤田の縦パスだ。

 守る側にとって、最も怖いのがゴールを狙ってくる縦パスだ。サイドからのクロスは、人数をかければはじき返せる。サイド攻撃だけではなかなかゴールを奪えない。しかし、横に揺さぶることで、DFとDFの間にスペースができる。藤田はその隙間を見逃さず、狙いすまして縦パスでえぐってくる。

 同時に、藤田はサイド攻撃の起点となることも多い。ボールを奪った後、中盤でボールを受けると、右に展開するのかそれとも左に展開するのか、相手DFの人数とポジションを見極め、守りの薄い方を狙って展開する。ピッチ全体を見渡す俯瞰(ふかん)の視野。その状況判断能力は非常に高い。

 東京V時代から能力の高さは注目されたが、横浜M時代はレギュラーの座を射止めるまでにはいたらなかった。しかし、今季移籍したシントトロイデンではレギュラーの座をつかみ、このチームでもキャプテンを任されている。

 パリ五輪で活躍すれば、さらなるステップアップの可能性も高まる。同時に、A代表でも大きな戦力となってくるだろう。楽しみな選手だ。(写真はAP)

 ◆大塚浩雄 東京中日スポーツ編集委員。ドーハの悲劇、94年W杯米国大会、98年W杯フランス大会を現地取材。その後はデスクワークをこなしながら日本代表を追い続け、ついには原稿のネタ作りのため?指導者C級ライセンス取得。40数年前、高校サッカー選手権ベスト16(1回戦突破)