◇12日 第19回ヴィクトリアマイル(G1・東京・芝1600メートル)

 テンハッピーローズの馬上で、津村の右腕がスタンドに向けて高く突き上がった。デビュー21年目、G1騎乗48回目にしてつかんだ栄冠。何度も相棒の首筋を優しくたたき、騎手仲間に祝福され、場内からは万雷の拍手。「いつか勝ちたい勝ちたいと思い続けて。一番大きい東京で勝てて、最高の瞬間。涙は出ないかと思っていたけど、皆さんの声援が聞こえて高まりました」と込み上げてくるものを抑えきれなかった。

 直線の走りはブービー14番人気の馬とは思えない迫力だった。4コーナーを回って各馬が一斉に追い出す中でも持ったまま。残り2ハロンまで待ち、ゴーサインを出すと馬は矢のように反応した。「手応えは抜群で先頭をとらえられそうだと。そこから必死に追いました。先頭に立ってからは誰も来ないでくれと思って」と無我夢中でリードした津村の思いに馬も応えた。

 G1では悔しい思いを続けてきた。特にカレンブーケドールとのコンビでは、2019年オークス、秋華賞、ジャパンCと2着。苦労人と評されがちだが「自分の苦労が足りなかっただけ」と謙遜する。「いつかはG1を勝ちたい」。あきらめない思いで、日々努力を重ねる中、ようやく勝利にたどり着いた。その原動力は家族。一番に喜びを伝えたい妻、小学5年の長男、同3年の次男は「きょうはサッカー(Jリーグ)の試合を観に行っている。家に帰ったら抱きしめたい」と表情を緩めた。

 1400メートルが主戦だったが、マイルで戦えるよう調教してきた厩舎の努力も見逃せない。先週はケンタッキーダービーで高柳大師が米国出張中でも、スタッフが抜かりなく留守を預かった。同師は直線で「声を出して応援していて、信じていたけど、本当に勝ってくれるとは思っていなかったので、最後は黙ってしまいました」と笑いながら「良い仕事をしてくれた津村騎手には感謝しかない」と好騎乗をたたえた。今後の予定は「冷静になってからオーナーと相談したい」。6歳の春、満開を迎えた遅咲きのニューヒロイン。携わる全ての人に、今後も幸せを運んでくれそうだ。