米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、北朝鮮北部・両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)で連続殺人が発生し、住民らが恐怖に震えているという。世界で最も厳しい国民監視体制を敷いている北朝鮮だが、刑事事件の防犯・捜査はめっぽう弱い。体制の安定を最優先し、国民の生命と安全を軽視していることの表れだ。

そのような状況だから、猟奇事件も諸外国同様に発生する。

北朝鮮はかつて、犯罪の少ない国と言われていた。一部の特権層を除き、皆が平等に貧しいものの、完備された配給システムで食糧や生活必需品を得られるという社会体制のおかげだと言われている。

ところが、配給システムが崩壊、食糧難が頂点に達した「苦難の行軍」の時期に犯罪が増加。平壌郊外の新興住宅地では、殺人なのか、自殺なのか、餓死なのかわからない遺体が毎日のように発見され、中にはバラバラにされたものもあったという。

だが、犯罪に走るのは食い詰めた人々だけとは限らない。例えば、2020年8月に発生した事件だ。

犯人は、平安北道(ピョンアンブクト)の鉄山(チョルサン)郡にある外貨稼ぎ機関の責任者だ。この男は親から利権を譲られた2代目で、カネで買った美女を船上パーティーに連れ出し、薬物を与えるなどの行為を続けていたが、やがて歯止めがかからなくなった。

言うことを聞かない女性を殺害し、川に投げ捨てた。その遺体が下流の水面に次々に上がったことで犯行が発覚し、逮捕に至ったという。一説に、犠牲者の数は30人とも言われる。

犯人は、まず間違いなく処刑されたはずだ。

また、「苦難の行軍」以前にもこうした事件はあった。語り草になっているとされるのが、1990年から翌年にかけて起きた「パク・ミョンシク事件」だ。

農場で12人の若者を切り裂いた連続殺人鬼パク・ミョンシクの犯行は、さながら映画「羊たちの沈黙」に登場する、ハンニバル・レクターの北朝鮮版と言ったところだ。

とは言え、北朝鮮の治安が大きく乱れるとき、その最大の原因となっているのが「飢え」であることも事実だろう。当局はそのたびに、公開処刑を子どもにまで見せる極端な恐怖政治で犯罪を抑え込もうとする。しかしそうして暴力を見せつけることが、いずれ残忍な暴力を誘発しかねないということを、あの国の指導者は考えないのだろうか。