金大中氏の拉致事件や、オイルショックによる買い占め騒動――社会が騒然としていた1973年に創刊されたのが、日経産業新聞(以下・日経産業)である。それから半世紀、日経新聞社が同紙の休刊を発表したのは2月1日のことだ。同社によると、3月29日をもって発行をやめ、デジタル専門の有料メディア「NIKKEI Prime」シリーズに移る。

 同社に聞くと、

「(前略)企業環境の目まぐるしい動きに合わせ、よりタイムリーに、より掘り下げた記事を発信していきます」(広報室)

 と答えるのだが、しばらく前から休刊がささやかれていた。

 日経新聞の関係者が言う。

「日経産業は公称3万6000部となっていますが、とっくに日本ABC協会への報告を取りやめており、実売部数はさらに少なかった。なかなか休刊にすることができなかったのは、同紙を自分たちのナワバリにしていた同社のビジネス報道ユニット(旧産業部)のプライドもあったからです」

自社メディアでトップ人事を発表する会社も

 ちなみに日経社内では政策報道ユニット(旧経済部)が一番のエリートで、財務省、日銀、経産省などを担当している。ビジネス報道ユニットはその次のポジションといわれており、記者数も多い。パナソニックやNECといったメーカーに勢いがあり、その動向に注目が集まっていた時代は社内の最大勢力であったこともある。

「その昔は、社長に取材したあと、“そろそろお願いしますよ”と言うと広告がドーンと出たものです。しかし、最近はそうしたこともない。もちろんネットの影響もあります。トヨタ自動車のように“トヨタイムズ”といった自社メディアを作って、そこでトップ人事を発表してしまう会社も出てきました」(同)

新聞社の中では勝ち組

 日経新聞は昨年、デジタル有料媒体の購読数を100万に乗せ、新聞社の中では勝ち組といわれている。その勢いのあるうちに、日経産業を休刊にしたともいえるが、元日経新聞記者の阿部重夫氏(「ストイカ」発行人兼編集人)が言う。

「日経グループには重荷となっている事業が他にもあります。しかし、それをどう扱うかは社内の力関係。2015年に約1600億円で買収した英フィナンシャル・タイムズ(FT)も、まだ“ミルク補給”が必要といわれています。しかし同紙は旧経済部の主導で買収したメディアですから日経産業とは扱いが違います」

 勝ち組の中でも勝敗あり。

「週刊新潮」2024年2月15日号 掲載