誰もが“知名度”を得られる時代

「結局のところ人って、“共感”“あこがれ”“問題解決”にしかお金を落とさないと思います」

 そう豪語するのは、動画制作やマーケティングを手掛ける株式会社Suneightの代表取締役社長・竹内亢一さんだ。今年2月に『知名度の上げ方』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓し、モノや顔を売るためには、冒頭の3つのキーワードをいかに意識するかが問われると続ける。

 人気YouTubeチャンネル『令和の虎CHANNEL』に“虎”としても出演する同氏が、文字通り「虎の巻」を開陳する。【我妻弘崇/フリーライター】

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「僕は会社経営者ですが、社長としてやらなければいけない仕事は4つしかないと思っています。それは、(1)新規顧客の開拓、(2)顧客のリピート率向上、(3)採用強化、そして、(4)離職率の低下です。よく、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)といった言葉を耳にすると思いますが、MVVの浸透も上記4つを解決するための手段でしかないし、この4つさえクリアできれば、自ずと企業のプレゼンスは高まります。では、どうやってその4つを実現するか? 人やモノが勝手に集まってくる方法は『知名度』があれば全て解決できます」(竹内さん、以下同)

 たしかに、「県内に初めてスターバックスがオープンしました」といったニュースでは、目を疑うほどの行列ができ、「朝5時から並んでいます」と話す人まで現れる。初めてオープンするのに、どうしてお祭り騒ぎになるのか――。それは、「あのスターバックス」が「私たちの町にやってきた」からだろう。知名度があるからこそ、人は行ったことがない場所やお店に行ってみたいと考える。

「“あの”は、知名度の証です。初めてそのエリアに出店するのに、知名度があると宣伝広告費をかけることなく、勝手に人が殺到してくれる。これってすごいことだと思いませんか? 一昔前なら、看板、雑誌やテレビなど広告するためのスポットは限られ、さらには莫大なコストをかけなければできないことでした。しかし、今は誰もがスマホを持ち、スマホを媒介として不特定多数の人に情報を届けることができます。企業や個人も、やり方次第ではコストをほぼかけることなく、知名度が得られる時代になりました」

 そのもっとも有効な手段が動画だと、竹内さんは断言する。X(旧Twitter)やFacebookを含めたテキストベースのSNSは、毎日投稿していたとしても、今日投稿したものは1ヵ月後には30コンテンツ下になってしまう。3ヵ月も経てば90コンテンツも下に埋もれてしまい、人の目に触れることはなくなってしまう。

 一方、動画は1年前の動画であっても“おすすめ”として浮上する可能性を秘めている。竹内さんは、前者を“掛け捨て型”、後者を“積み立て型”の広告コストだと指摘する。さらに、

「Google副社長兼YouTubeグローバルヘッドだったロバート・キンコー氏は、“ネット上のトラフィックの90%が動画からになるだろう”という衝撃的な発言をしています。そう遠くない未来に、Googleの上位検索に表示されるものは動画が席巻すると話しているんですね。動画は、現在のホームページよろしく、新しい時代の“デジタル名刺”のような存在になる。これからの時代、自社で動画配信を行っていないということは、HPを持っていないのと同じ。イコール機会損失を垂れ流していると考えた方がいい」

「原点に立ち返ることが大切」

 では、動画を作る際に意識すべきことは何か?

「顧客がほしい=お金儲けという発想に陥りがちです。そうではなく、自分がやっていることは、誰のために、何のためにやっているのか。原点に立ち返ることが大切です」

 そのために必要な視点が、「共感」「あこがれ」「問題解決」を意識することだと話す。

「数えきれないほどの動画を手掛けてきましたが、この3つの要素のいずれかを含む動画はバズりやすい」

 具体的な例を挙げて説明する。Suneightが手掛ける動画の一つが、YouTubeチャンネル「ストレッチトレーナー/理学療法士 兼子ただしch」だ。タイトルが示す通り、兼子ただしさんの本職は、ストレッチトレーナー、理学療法士である。もともと「ストレッチトレーナー/理学療法士 兼子ただしch」は、座学を中心としたスポーツストレッチ系の動画だったが、数字が伸びず苦戦をしいられた。そのテコ入れを施したのが、竹内さんだった。

「兼子さんのキャラは、当時から個性的で面白く、人を魅了する話術も兼ね備えていました。しかし、動画にアクセスした人は、肩こりや腰痛などに悩まされ、藁にもすがる思いで訪れたかもしれない。それにもかかわらず座学が始まれば、離脱してしまっても不思議ではない」

 そこで竹内さんは、兼子さんが元来持っているキャラをいかしながら、「ユーザー参加型の企画」を提案する。端的にいえば、本当に苦しんでいる相談者と兼子さんが対峙し、その場で施術。百聞は一見に如かず、論より証拠。劇的に改善する相談者の喜怒哀楽が伝わるような動画にシフトチェンジしたのだ。

「相談者が打ち明ける痛みや思いは“共感”となり、実際に施術をして改善する様子は“問題解決”を示します。そして、痛みが緩和される相談者の姿は、視聴者にとって“あこがれ”に映る」

 テコ入れ前のチャンネル登録者数は2774人(2020年1月15日時点)だったが、現在、登録者数は約22.9万人(2024年4月時点)まで上昇。100万再生超えの動画を多数記録しており、スポーツストレッチ系の動画の中でも、屈指の知名度を誇る存在となった。

「現在、兼子さんが運営するストレッチ専門スタジオは、予約が殺到する状況になっています。兼子さんが監修する商品も飛ぶように売れていて、まさに知名度の効果です」

財布の紐を緩めるというのは、すなわち人の心を動かすということ

「共感」「あこがれ」「問題解決」は、たしかに人の心を惹きつけやすいだろう。身近に感じてもらうことができれば、親近感もわきやすくなる。

「一時期流行った有名人のモーニングルーティンは、“あこがれ”にひもづいたキラーコンテンツですよね。また、“ホスト界の帝王”と称されるROLAND(ローランド)さんは、まさに“あこがれ”を上手に採用に結びつけた人物だと思います。彼が発信する情報によって、“ROLANDさんと一緒に働きたい”“自分もROLANDさんのようにお金を稼ぎたい”と夢を見た若者は多い」

 今流行っているもの、あるいは支持されているものを思い浮かべたとき、3つの視点から因数分解すると「謎が解ける」と竹内さんは喝破する。

「僕は、“この人の動画には感情移入してしまう”“この暮らし方、かっこいいなぁ”“面白いから、すきま時間を埋めるのに最適”という具合に、ユーザーの“共感”“あこがれ”“問題解決”に紐づくことで、視聴者をファン化させることができると考えています。何を買うかより誰から買うか――を、気にする人は多いと思うのですが、同じような価格帯でAとBの商品で悩んでいるなら、自分が好きな人(親近感を感じている人)が提案している方を選びませんか? 選ばれるためには、“共感”“あこがれ”“問題解決”を無視してはいけません。財布の紐を緩めるというのは、すなわち人の心を動かすということ。モノだけでなく、自分の顔を売りたいときも、この3つは鉄板だと思います」

 自分が何かを表現するとき、「共感」「あこがれ」「問題解決」を意識すること。この記事が、今まさに読んでくれている読者にとって「問題解決」(ヒント)となり、「共感」や「あこがれ」を誘うものになっていたら幸いだ。

我妻 弘崇(あづま ひろたか)
フリーライター。1980年生まれ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生として芸人活動を開始。約2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーライターに。現在は、雑誌・WEB媒体等で幅広い執筆活動を展開。著書に『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(ともに星海社)など。

デイリー新潮編集部