ドラマ「不適切にもほどがある!」(TBS)の初回放送(1月22日)がTVerなど広告付き無料配信の再生数で340万回を突破、全番組中1位を記録した。コンプライアンスが厳しい令和(2024年)と、そうではなかった昭和(1986年)を行ったり来たりする、タイムスリップドラマだ。そこでベテランテレビマンに、80年代の業界を振り返ってもらった。

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 ドラマでは毎回、視聴者に注意を喚起するテロップが映し出される。

《今更ですが このドラマは不適切な表現および喫煙シーンが含まれますが(中略) その是非を問うことを主題としているため あえて1986年当時のまま放送します》

 行きすぎたコンプライアンスを逆手に取ったドラマであることは言うまでもない。民放幹部は言う。

「お断りのテロップがやけにリアルで生々しく感じますね。コンプライアンスにがんじがらめになっている令和の制作現場へのエールと捉える人も多く、業界視聴率もうなぎ上りです。実際の視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯)も初回7・6%から7%台を続けており、地上波離れのご時世で大健闘と言えるでしょう」

 脚本の宮藤官九郎、主演の阿部サダヲは、どちらも1970年生まれの53歳だ。

「70年生まれということは、86年当時は高校生。劇中で阿部が『昭和に帰って、トゥナイト見た〜い!』と言っていますが、彼らも悶々としながら『トゥナイト』(テレビ朝日)や『11PM』(日本テレビ/読売テレビ)などの深夜番組を見ていたことでしょう。ですからドラマは、当時の番組へのオマージュだらけです」

ムッチとマッチ

 1965年にスタートした「11PM」は、平日の夜11時台に放送された日本初の大人向け番組で、月・水・金は東京の日本テレビ、火・木は大阪の読売テレビが制作。東京では大橋巨泉や愛川欽也、大阪では藤本義一が司会を務めた。50代以上の方なら“うさぎちゃん”と呼ばれる女性リポーターが温泉を紹介するコーナーを覚えている人もいるだろう。

 一方の「トゥナイト」は作家の利根川裕を司会に80年にスタート。同じく平日の11時台に放送され、映画監督の山本晋也による“大人の街”リポートなどが名物企画だった。

「両番組とも80年代が全盛期で、当時、従業員が下着を着用しない、いわゆる“チョメチョメ”喫茶で人気だったイヴちゃんを番組で取り合っていました。彼女は各大学に私設応援団ができるほどの人気で、歌舞伎町(東京・新宿)のトップアイドルとなり、87年には『イヴちゃんの花びら』(にっかつ)で映画デビュー。同じ7月に松田聖子の主演映画『夏服のイヴ』(東宝)も公開され、セクシー派と清純派の対決なんて声もありました」

 そういえば、阿部の娘を演じる河合優実(23)の髪型は聖子ちゃんカットだ。

「彼女が憧れるムッチ先輩(磯村勇斗=31)は『ギンギラギンにさりげなく』を歌っていることからもマッチ(近藤真彦=59)がモデルなのでしょう。ムッチが乗っているバイクはホンダCBX400F(ドラマでは純正カウル付きのインテグラ)と、マッチが主演した映画『ハイティーン・ブギ』(東宝)で乗っていたものと同じです」

 近藤も自身のラジオ番組で「これ俺だよな?みたいな。これからちょっと楽しみですね」と語っている。

国会で問題に

「不適切〜」では“チョメチョメ”が多用されている。

「阿部がしょっちゅう『チョメチョメしちゃう!』と叫んでいますし、娘が出演した深夜番組も『早く寝ないとチョメチョメしちゃうぞ』でした。チョメチョメというのは、もともと山城新伍 がクイズ番組『アイ・アイゲーム』(フジテレビ)の中で、解答となる伏せ字を言葉にする時に編み出したもので、流行語にもなりました」

 当時TBSのアナウンサーだった久米宏が「ぴったし カン・カン」で使った“ほにゃらら”というのも流行語になった。

「おそらく『早く寝ないとチョメチョメしちゃうぞ』のモデルは『オールナイトフジ』(フジ)でしょうね。83年にスタートした深夜番組で、当初の司会は秋本奈緒美と鳥越マリで、これに片岡鶴太郎やデビュー間もないとんねるずが絡みました」

 とんねるずがデビュー曲「一気!」を歌っている際、石橋貴明 がカメラを横倒しにして破壊したシーンは伝説となっている。松本明子が放送禁止用語を絶叫した事件もあった。

「これが大ブームとなり、他局も負けじと深夜番組をスタート。当時は番組内にバニーガールが跋扈していましたし、ポロリだって当たり前。中でも日テレの『TV海賊チャンネル』は、“ティッシュタイム”など過激さをウリにしていました。ところが、過激すぎて国会でもやり玉に挙げられ、86年に番組は終了。『オールナイトフジ』も85年にバラエティに特化した『オールナイトフジII』となりました」

 コンプラにうるさくなかった昭和でも、打ち切られた番組はあったのだ。

最も不適切なのは?

「『チョメチョメしちゃうぞ』で白衣に聴診器という医師スタイルの司会者ズッキー(秋山竜次=45)は番組ではセクハラキャラでしたが、いざケガ人が出るとカメラを止めさせ適切な処置に努めた紳士であったことがSNSでも賞賛されていました。あのモデルは孤高の医事漫談家・ケーシー高峰かもしれません。彼は代々医師の家庭に生まれ、医学部に入学したもののお笑いの道に入った人でした」

 また「不適切〜」自体、モチーフとしているドラマがあるという。

「TBSのドラマでありながら、モデルとなっている番組が他局ばかりでしたが、ドラマ自体はTBSの『毎度おさわがせします』が大きなモチーフとなっていると見ています。85年にスタートし、初回のサブタイトルが『こんにちはポコチン』でした。木村一八 や中山美穂 らが出演し、ドラマではほとんど取り上げられなかった思春期の悩みをコミカルに描きました。中山の父親役だった板東英二が『不適切〜』での阿部というところでしょう」

 ことほどさように昭和へのオマージュが詰まった「不適切〜」だが、

「最も“不適切”と言っていいのは、阿部サダヲという芸名でしょう。いまの若い人は阿部定事件など知らないでしょうが、彼がテレビに出始めた頃、とんでもない芸名にびっくりしたものです」

 ご存知ない方は、大島渚監督の映画「愛のコリーダ」をご覧ください。

デイリー新潮編集部